澄み渡った水の中。螺旋状のリボンが優雅に舞い、宝石のようにきらめく物体がゆらゆらと漂う――。
美しく幻想的な3次元CG映像のタイトルは“細胞の世界”。リボンに見えるのはDNA、宝石の正体はミトコンドリアだ。「正しく、楽しくサイエンスを伝えたい」という瀬尾拡史氏の思いが凝縮された作品の一つだ。
瀬尾氏が3次元のCG制作に出会ったのは、中学校時代のパソコン部に在籍していたときだ。「数学と物理の固まりで苦戦した」が、真正面から取り組んで原理を理解した。
ほどなくNHKのドキュメンタリー番組「驚異の小宇宙・人体」に魅せられ、生命科学分野のCG制作に興味を抱く。国内には、その道の専門家は見当たらなかった。「だったら自分がやろう」と心に決めた。
「学術系のCGを作るなら、その分野の知識がないとダメ」。そう考えて、東京大学医学部に進学した。医師としての専門知識を身に付けるかたわら、専門学校に通ってCG制作の腕を磨いた。
そして、サイエンスCGの制作を請け負うサイアメントを設立する。現在、社長として忙しい日々を送っている。
サイエンスCGは「楽しく」サイエンスを伝えることができる。CGで視覚的に分かりやすく表現することで、一般の人に科学技術の意義を無理なく伝え、興味を喚起できる。
例えばiPS細胞のように、優れた日本の研究成果を広く世界にアピールするのに使える。課題として叫ばれて久しい、“子どもの理科離れ”に歯止めをかけられる可能性もある。