写真●IBMディスティングイッシュトエンジニアの榊原彰氏
写真●IBMディスティングイッシュトエンジニアの榊原彰氏
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 「クラウド技術の急速な普及によって、企業情報システムに求められる姿が『記録のシステム』から『契約のシステム』へと一変した」

「この突然の“ルール変更”に追随できないSI事業者は、顧客に付加価値を提供できず、淘汰されていくのではないか」

「クラウドは“ロケーションフリー”の技術なので、価格競争力のある海外事業者とも戦わなければならない。IT業界にとってクラウドはまさに黒船だ」

 こう語るのは、ITアーキテクトとして20年以上にわたり社内外のプロジェクトで活躍してきた日本IBMの榊原彰氏だ。かつて、IBM技術職の最高位(IBMフェロー)に次ぐ「IBMディスティングイッシュトエンジニア」に、最年少で就いた経歴を持つ。

 SI事業者をふるいにかけるという「記録のシステム」「契約のシステム」。聞きなれない言葉だが、どういう意味だろう。

 従来の企業情報システム、とりわけ基幹系は、一つの完結したシステムとして、業務の記録を正確に残すことが求められていた。つまり「システム・オブ・レコード(Record=記録)」である。

 ところが最近の基幹系システムは、外部のクラウドサービスやSNS、パッケージソフトなどと連携し、顧客とのコミュニケーションや取引先とのコラボレーションの基盤となることが求められている。

 この連携は「システム同士があらかじめ決められた約束事に従い、リクエストを受け取ったら相手にサービスを提供する」という契約によって成り立つ。すなわち「システム・オブ・エンゲージメント(Engagement=契約)」ということだ。

 企業のビジネスを支えるITベンダー、とりわけSI事業者は「もはや記録のためのシステムを納期通りに開発するだけでは評価されない」と榊原氏は言う。

 「外部システムとの連携を的確に設計・実装できる技術力はもちろん、どのシステムとどのようにつなげば顧客に付加価値を提供できるのかを見極めるクリエイティビティ(創造力)が問われることになる」