ベンチャー企業と言えば、ひところはスマートフォン向けのアプリやサービスの開発など、ソフトウエア分野に脚光が当たっていたが、最近はハードウエアの開発・販売を志向するメーカーの起業も増えている。いわゆるハードウエアベンチャー、ものづくりベンチャーだ。そんな日本の”メーカーズムーブメント”の草分け、ハードウエアベンチャーの旗手が岩佐琢磨氏になると思う。
岩佐氏が志向しているのは、本格的な家電メーカーだ。同氏が2007年に起業したCerevoは、PC不要でニコニコ生放送やUstreamなどに映像を配信できるハードウエア「LiveShell」などを開発・販売している。
メーカーズムーブメントというと、3Dプリンターやレーザーカッターといった工作機械に目を奪われがちで、それらを使ったクラフト系の趣味的な物作りをイメージする方も多いかもしれないが、Cerevoは違う。
今やLiveShellは国内だけでなく、5月現在で世界17カ国・地域にまで販路を広げる。もちろん、メーカーとして製品のテストから、各国・地域の安全基準や制度への準拠などをクリアした上で販売している。たとえニッチな製品であっても、世界で売れば市場規模は十分大きくなる。約10人の小規模なメーカーながら、その舞台は世界に広がる。
岩佐氏はパナソニック出身である。ハードウエアの開発・販売という分野にベンチャー企業が以前よりも参入しやすくなったとはいえ、なぜ大手メーカーを辞してまで自らメーカーを起業したのか。
岩佐氏の起業の目的はシンプルだ。「ネットと家電で生活をもっと豊かに便利にする」ことである。
岩佐氏は大手メーカーの製品について次のように語る。「マスのど真ん中を狙って数十万台出すことを前提に商品化の判断をするのが大企業の使命」。これはこれで大事だが、そうすると「ユーザーの立場として、その製品にあまりワクワクしない」。
「数千台、数万台しか出ないかもしれないが、大企業が作れないような製品を作る」ことをCerevoは目指すという。
「大企業が作れない」というのは技術的にやれないという意味ではない。