写真●酒匂秀敏氏・ブレイズ・コンサルティング代表取締役
写真●酒匂秀敏氏・ブレイズ・コンサルティング代表取締役
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 「意志決定を支援する存在であること」――。それが酒匂秀敏ブレイズ・コンサルティング代表取締役が信じて疑わない、コンピュータのあるべき姿だ。

 今までコンピュータが担ってきた役割を酒匂氏は次のように総括する。

 「最初は高速な計算機として、続いて膨大な記憶装置、その次は専門家の業務サポート。そしてインターネット登場以降は、コミュニケーションツールとしての役回りも果たしてきた。ここまで4つの役割があったわけです」

 酒匂氏はこれらに加えて、コンピュータが引き受けるべき5つめの役割があると説く。それが冒頭の「意思決定支援」である。

 意志決定支援システムなど、5番目の役割への挑戦は過去何度かあったが、成功を収めたとは言えないという。この役割を担う技術として、酒匂氏は「BRMS(ビジネスルール管理システム)」を挙げる。BRMSに酒匂氏は長年にわたって関わってきた。

 BRMSとは、業務を進める際に守るべき規定や約束ごとを「もし…ならば~せよ」という形式で表し、管理するソフトウエアのこと。金融・保険業界で先行して導入が進んできた。典型的な導入例が、ローンや保険などの審査業務だ。

 これらの業務には、多岐にわたる判定基準が存在する。BRMSを使って判定を自動化しておけば、業務をスピーディーに進めることができ、ひいては金融機関や保険会社の競争力強化につながる。もし、すべてを人間がやろうとすれば、膨大なリソースと時間が必要になってしまう。

 変化に強い業務システムを構築できる、という利点もある。BRMSは、ビジネスルールを業務アプリケーションから切り離して管理するため、法制度の変更やビジネス上の要求によって判定基準を変更する場合も、アプリケーションの修正が必要ないからだ。

一つの商品に賭ける

 酒匂氏は丸紅グループの出身。電子産業システム事業の米国拠点ボストンに赴任し、半導体製造装置やCAD/CAMソフトの対日輸出向け商材の発掘やマーケティングなどを担当していた。様々な商品を手掛けることができたものの、一つの商品に関してマーケティングから開発、販売といった全行程を徹底して担当することはほとんどない。「一つの商品に賭けてみたい」という思いが出てきた。

 日本に帰国後、米ニューロン・データの日本法人設立に参画、社長に就任した。1996年頃から同社でBRMSを扱うようになり、2002年に導入コンサルティングを請け負うブレイズ・コンサルティングを設立した。通算すると20年近くにわたってBRMSに携わっている。

 今後は「BRMSをつかいこなせる人材の育成、普及啓蒙活動にも務めたい」という。BRMSを利用する肝は、いかに有効なビジネスルールを設計するかである。競争優位を生み出せるようなルールをモデリングによってまとめ、それをシステムに実装できるSEが不可欠だ。BRMSのフォーラムをアジアで開催することも目指す。

 「コンピュータは長らく金喰い虫と呼ばれていた。だがBRMSを活用して企業の意志決定をより良くすることができれば、利益を生み出す存在へと変えられるはず」と語る口調は熱い。

 酒匂氏は、興味のあるテーマに関する新聞記事を切り抜き、束ねて持ち歩いている。空き時間にまとめ読みするためだ。特定分野のニュースを時系列で追っていくと、過去から将来の流れを予測することができるという。

 20年近くBRMSに携わってきた酒匂氏の眼には、コンピュータが果たすべき役割がはっきりと見えているに違いない。

岡部 一詩
日経コンピュータ
 ITベンダーで営業とSEを経験後、記者に転じる。主にアジアにおけるIT情勢の報道を担当する。