「体が思うように動かせない人にとってパソコンは社会との重要な接点になります。ですからパソコンは万人にとって使いやすい機器であるべきでしょう」──。NPO法人ICT救助隊の今井啓二副理事長は身体障害者にとってのパソコンの存在意義をこう語る。
ICT救助隊は3月24日、東京都千代田区の一橋大学一橋講堂で、第4回「ITパラリンピック2013」を開催した。徐々に体の自由が利かなくなっていく難病「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」の患者たちが参加し、パソコン操作の技を披露した。
今井氏が発足させたNPO法人ICT救助隊は、ALSを発症した患者がパソコンを利用できるようにする「スイッチ」を作り、パソコン利用を後押ししている。
症状が進むと患者は外出もままならなくなり、わずかな指の動きや、瞬きなどでしか意思を表せなくなる。そうした際、パソコン操作に欠かせないのがスイッチだ。指などのわずかな動きを検知してパソコンに信号を送る。
体のどの部位をどう動かせるか、個人差がある。そこで今井氏は、プラスチック容器に穴を開け、発泡スチロールを切り、はんだごてを使い、一人ひとりの患者に合うスイッチを製作してきた。パソコンだけでなく、iPadを操作するスイッチも開発済みだ。
「スイッチがあれば、パソコンでもタブレットでも使え、メールを送り、ブログを書き、ゲームだってできる。そうした人たちに、『良かった』と言ってもらえるのがうれしい」
アマチュア無線が趣味だったが、パソコンの専門家ではない。高齢者のパソコン利用を支援するボランティアを始め、周囲の人からの頼み事を聞いているうちに、自然と活動の場が広がっていった。
2011年から、スイッチ作りのノウハウを全国の看護師やホームヘルパーに伝授しようと、各地のNPOと共同で「難病コミュニケーション支援講座」を開催するようになった。毎週末のように、全国を飛び回る。
パソコンやスマートフォンは広く普及したが、だれでも使えるIT機器なのかというと、まだそうとは言えない。ここへ来て、シニア世代向けのスマートフォン製品も登場しているが、IT機器にアレルギーを持つ高齢者は少なくない。
だれでもIT機器を使えるようにする。今井氏の取り組みと熱意は、今後さまざまな生活シーンで幅広くIT機器を活用しようとする日本社会にとって大きなヒントになりそうだ。
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