iPhone向けアプリをRubyで開発できるようにするオープンソースのソフトウエア「MobiRuby」(関連記事)。このソフトを個人で開発したのが、Rubyコミュニティなどで著名なプログラマー、増井雄一郎氏だ。
PHPによるWikiシステム「PukiWiki」の開発などで名をはせた後、起業を目的に2008年に渡米。米マイクロソフト出身でWindows 95などのアーキテクトとして知られる中島聡氏と共にベンチャー企業Big Canvasを米国シアトルで創業した。
その後、スマホアプリ向けJavaScriptフレームワーク「Titanium Mobile」で知られる米Appceleratorに転じ、“プラットフォーム・エバンジェリスト”を務めるなど、国内外で精力的に活動し続けている。
現在は、料理写真共有サービス「ミイル」を手掛けるFrogAppsで取締役CTOを務める傍ら、個人でMobiRubyなどの開発を続けている。MacBook Proを風呂に持ち込み、湯船に浸かっているときですらプログラミングをする「フログラマー」としても有名だ。
「なぜMobiRubyを開発したのか」――。その問への同氏の回答の一つが、「自分の名刺代わりになるプロジェクトを作りたいから」というものだった。
世界に通じるオープンソースソフトウエアを開発し、そのプロジェクト名で自らの名前を覚えてもらえる。そんな存在になりたいというわけだ。
並外れた行動力と軽快なフットワークがその夢を現実のものとしている。Appcelerator入社の際は同社CEOと直接掛け合い、GitHubなどで公開していた自らのオープンソース分野での開発実績をアピール。同社で初の日本人社員となった。
MobiRubyの開発でも、まつもとゆきひろ氏が開発中だった軽量版Ruby「mruby」のソースコードを一般公開前の段階で入手し、iOS向けアプリをRubyで開発できる環境を世界に先駈けて構築した。
「MobiRubyのアイデア自体は突飛なものではなく誰もが思いつく。であれば、先に宣言して着手することに意味がある」。
2013年2月には、MobiRubyをはじめとするオープンソース活動への貢献が認められ、「第8回 日本OSS奨励賞」を(関連記事)、2013年3月には「第5回 フクオカRuby大賞 特別賞」を受賞した。
2013年6月には、「ここ1年間、個人でWebサービスを全く作っていなかったから」という理由で、メモ帳のWebアプリ「wri.pe」をリリースした。
フリーランスのプログラマーとしてキャリアを重ね、組織に所属しながらも、組織に依存しすぎることなく、自らの進む道を貪欲に開拓していく。増井氏の姿勢は新世代のITプロフェッショナルのキャリア像を考える上で示唆に富む。
日経コンピュータ