写真●ソニックガーデンの倉貫義人社長
写真●ソニックガーデンの倉貫義人社長
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 「今、力を入れているのは“バーチャルCTO”としてスタートアップ企業を支援することですね」

 ソニックガーデンの倉貫義人社長に近況を聞くとこんな答えが帰ってきた。同社は「納品のない受託開発」(倉貫義人氏のブログ記事)というビジネスモデルを追及している。

 バーチャルCTOとは一体何か。スタートアップ企業のCTO(最高技術責任者)を倉貫氏が代行するという意味だ。倉貫氏がスタートアップ企業のCEO(最高経営責任者)の横にて、テクノロジーの視点からCEOに助言し、ビジネスに必要なサービスやシステムがあれば、それを一緒に作っていく。

 ここで言うテクノロジーとはもっぱらITを指す。システム開発の発注者とその受注者という関係はそこには見えない。

 そういえば、前回の取材で倉貫氏に会った半年ほど前、倉貫氏は「今、最も元気なITエンジニアはスタートアップ企業のCTOだと思います」と話していた。

 CEOが考えたビジネスプランを基に、必要なシステムあるいはサービスをすぐに自分の手で作りあげる。それほど大きなシステムは必要ないので、ほぼCTO一人で開発してしまう。自分の手で事業を実現させている実感がわき、いきいきと仕事をしている。

 こうしたCTOの役を、倉貫氏自身が買って出た。「良いアイデアを持ったスタートアップ企業は本当に多い。ところがなかなか良いCTO役を見つけられず、ITで悩んでしまう。それはあまりにも、もったいない」

 ITエンジニアを募集しているスタートアップ企業は多いが、「多くのCEOにとってITエンジニアのスキルを見極めることは難しく、なかなか良い人材を確保できない」と倉貫氏は話す。

 良い人材を見つけられないとなると、スタートアップ企業のCEOはIT企業に相談し、必要なシステムやサービスの開発を委託しようとする。ところがIT企業もなかなか見つけられない。

 「これから生み出す新しいビジネスを支えるためのものだから、通常のシステム構築案件として発注できるほど要件が明確ではなく、IT企業のほうから断ってくることが多いそうです」

 このような状況を聞いて、倉貫氏はバーチャルCTOのニーズがあると考えた。ソニックガーデンが手がける「納品のない受託開発」は、開発したサービスの利用をユーザーが始めた後も、ユーザーの要求を聞き続け、新機能を毎月リリースするというもの。これはまさにCTOの振る舞いに近い。

 取材を終えた帰り際に、「多くのスタートアップ企業を支援して、どんどん成功企業が出てくれば、産業界は活性しますよね」と少し大げさなことを聞いてみた。倉貫氏は「もちろん、そのつもりでやってます」と力強く答えた。

矢口竜太郎
日経SYSTEMS
 日経コンピュータ、日経ソリューションビジネスなどで記者を務めた。最近は、クラウドを利用したシステムのアーキテクチャー設計やマネジメントスキルについての記事を担当する。