デジタルメディアを使って見込み客(リード)にアプローチし、買う気を高めるマーケティングオートメーションをテーマにした本連載。今回からは「パーソナライゼーション」を取り上げる。

 パーソナライゼーションとは、顧客をマスでひとくくりにせず、個人個人のニーズに合わせて対応することを意味する。ホームページにおいては、来訪者の購買/行動履歴、顧客属性などに合わせて、表示するコンテンツやデザイン、サイト構造などを一人一人異なったものにする、ということになるだろう。

 「そんなの今や当たり前でしょ」と思ったあなた。確かにその通り。パーソナライゼーションは、Eコマースの世界では、購買履歴に応じて関連商品をお勧めするレコメンデーションとして普及が進んできた。Amazon.comがその名声を世界に広めることに一役買ったことは説明するまでもないだろう。

 しかし、パーソナライゼーション未開の地がある。企業の公式ホームページ、最近の言葉で言えば「オウンド・メディア」だ。

 個人情報の登録と認証を前提としない公式ホームページでは、これまで顧客属性や購買履歴に基づいたパーソナライゼーションは積極的には行われてこなかった。もちろんキャンペーンプロモーションへの応募や相談予約、セミナーへの応募などでは、公式ホームページでも顧客情報を取得できる。しかしこうした情報を手動で自社の顧客管理システムで統合的に管理し、デジタルマーケティングに活用することは難しかった。

何度通っても顔を覚えてくれない飲み屋

 その結果、URLが同じであれば、「あなたが見ているページは、他の誰かが見ているページと全く同じである」というホームページがほとんどを占めている。

 自動車メーカーのホームページで考えてみよう。パーソナライゼーションが行われていないホームページでは、何度も来訪・閲覧した後、試乗もしており、購入直前の見込み顧客と、偶然ふらっと、初めてホームページに来訪した見込み顧客に対して全く同じ対応をしていることになる。

 飲食店に例えるなら、何度通っても全く顔を覚えてもらえず、一見さんと同じ対応をされる店というわけだ。もちろんサービスの一品もつかなければ、誕生日の割引サービスも無い。よほど惚れ込んでいれば別だが、足しげく通いたいとは思わないのではないか。

 しかし裏を返せば、ここには大きな機会が存在することになる。見込み顧客のニーズの高さや購買ステージに応じて異なるコンテンツ表示が可能になれば、当然購買の可能性を高くすることができると考えられるからだ。

 公式ホームページにおけるパーソナライゼーションが注目されるようになってきた背景には、クラウド型顧客データベース(SFA)やキャンペーン管理ツールの普及がある。

 これらは、ホームページから得られる顧客情報と来訪者のブラウザ(クッキーを利用)を紐付けて管理し、次回来訪時にはそれを識別することを可能にしてくれる。

 これにより、顧客の属性やこれまでの行動履歴に応じて異なるホームページを表示するパーソナライゼーションでホームページのマーケティング成果を向上させようとする取り組みが注目され始めたのだ。

やりすぎると「気持ち悪さ」に

 ただし、課題もある。その一つはプライバシーの問題だ。

 公式ホームページのパーソナライゼーションが進んでこなかった理由の1つは、安易なパーソナライゼーションが来訪者に不信感を持たれることへの危機意識もあった。

 いくら来訪者を識別できるからといって、来訪時に「○○さん、3回目の来訪ですね、前回の閲覧ページからのお勧めはこれです」などと表示しても、意味がないどころか逆に気持ち悪く思われてしまうだけだ。来訪者に「やりすぎだ」と思われない範囲でのパーソナライゼーションを行う必要がある。

 また、属性や行動履歴に応じて、どのようなコンテンツを見せるのかというシナリオを設計するうえでも課題がある。技術的には無数に設計することが可能だが、現実的な運用や効果を見据えて落としどころを探らなくてはいけない。

 前述したように、顧客を識別するクラウドサービスは登場しているが、効果検証の基盤であるアクセスログ解析のツールや、ホームページの制作・運用基盤であるコンテンツマネジメントシステムなどには、パーソナライゼーションを前提としたものがまだ少ない。こうしたシステム面での課題もある。

 パーソナライゼーションは、うまく機能させることができれば、公式ホームページにおける来訪者の購買行動に大きな影響を与え、収益に貢献しうる大きな可能性を秘めている。

 次回は、こうしたパーソナライゼーションへの取り組みの具体的な事例を紹介してみたい。

田島 学(たじま まなぶ)
アンダーワークス代表取締役社長
田島 学(たじま まなぶ)


早稲田大学政治経済学部卒。アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)などを経て2006年4月にデジタルマーケティングのコンサルティング会社アンダーワークスを設立。