写真1●東和電子の山本喜則社長
写真1●東和電子の山本喜則社長
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 住まいの中で一番広いリビングルームに鎮座していた大型のステレオセットが消えてから久しい。音楽は一人ひとりがヘッドフォンをして、携帯型の音楽プレーヤーで聴くのが一般的になった。

 東和電子の山本喜則社長はそんな状況を憂い、「ヘッドホンに取って代わられたオーディオ機器をリビングで復権させたい」と思いを語る。

 2009年に、「Olasonic(オラソニック)」というブランドをつくり、USB接続のスピーカーを発売して大ヒットさせた。それまで無名であった基板設計会社が、たちまちオーディオファンに知られるようになった。

 音楽プレーヤーに飽きたらず、もっと良い音で聴きたいという人たちにOlasonicのスピーカーは応えた。パソコンに取り込んだデジタルの楽曲を、USB DACという機器を使って再生する「PCオーディオ」は数年前からちょっとしたブームになっている。数万円する高級ヘッドホンも人気だ。

 続いて山本氏は、アンプやプレーヤーといったオーディオコンポーネントの開発に着手した。この世界は大手メーカーや老舗の海外ブランドがひしめく。新参者が勝つのは容易ではない。

 「気兼ねなくリビングに置けるくらい小さくて、それでいて音質が良いアンプやCDプレーヤーを作れば絶対に売れる」。こう信じて山本氏は新たに「NANOCOMPO(ナノコンポ)」シリーズを開発した。

写真2●「Olasonic NANOCOMPO」シリーズのDAC内蔵アンプとCDプレーヤー(トランスポート)。幅は約15cmと非常に小さい。
写真2●「Olasonic NANOCOMPO」シリーズのDAC内蔵アンプとCDプレーヤー(トランスポート)。幅は約15cmと非常に小さい。
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 「据え置き型で世界最小のCDプレーヤーを作ろう」いう決意から導き出された本体サイズは、CDのジャケットより一回り大きい程度だ。

 これに組み合わせるアンプはデジタル式で、やはりCDジャケットサイズと、これまでの常識では考えられないほど小さい。

 実際に音を聴いてみれば、大型アンプにも負けない音質であることが分かる。パソコンとUSBで接続すれば、保存してあった楽曲を手軽に高音質で再生できる。

 「アナログのアンプはトランスの大きさでドライブ能力が決まってしまう。NANOCOMPOは最新のデジタル処理技術と、コンデンサーを利用する当社独自のアンプを組み合わせることで、小型でも豊かな低音を出せるようにした。オーディオ機器は大きくないと音が良くないという常識を覆したかった」

 今年4月に発売したNANOCOMPOのアンプは6万4800円、CDプレーヤーが5万5800円。安くはないが、高級オーディオブランドの製品に比べれば手が届きやすい。

 新発想のデジタルオーディオ機器が音楽ファンにどう受け入れられていくか。そして山本氏が次にどのような製品を出すのか。どちらも楽しみだ。


江口悦弘
日経WinPC
 日経WinPCの記者、副編集長、日経パソコン副編集長を経て、2010年から日経WinPC編集長を務める。23年間、PCのハードウエア技術動向を追ってきた。