写真●フォティーンフォティ技術研究所(FFRI)社長の鵜飼裕司氏
写真●フォティーンフォティ技術研究所(FFRI)社長の鵜飼裕司氏
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 WinnyやShareの暗号の解読など、フォティーンフォティ技術研究所(FFRI)社長の鵜飼裕司氏はセキュリティ技術者としての知名度が高い。個人としての活動が注目され、米イーアイ・デジタル・セキュリティーにスカウトされて渡米。帰国した2007年7月にFFRIを創業した。

 鵜飼氏はFFRIで純国産のウイルス対策ソフト「yarai」、標的型攻撃対策ゲートウエイ「Tabaru」を開発・提供するなど、現在では起業家・経営者としても活躍している(関連記事)。

 FFRIを設立するにあたって鵜飼氏には一つの理念があった。「日本の技術者がグローバルで活躍できるようにしたい。FFRIがそのロールモデルになれたらいいと思っている」。

 そう考えたきっかけは、鵜飼氏の米国での経験がある。「英語が苦手だし、すぐれた技術者が沢山いるというイメージが強く、イーアイへの入社前はかなり不安があった」。

 しかし入社後に感じたのは「思ったよりもハードルが低い」ということだった。「米国と日本で技術力にそれほど差があるわけではない。むしろ技術を広めていく力に差がある」と痛感した。

 米国からはコンピュータやネットワークのコアとなる技術が次々と生まれる。一方、日本ではなかなかそれをできずにいる。「コア技術を基礎から研究開発して、産業化に結びつけていくのはリスクが大きい。そのリスクを許容できるかどうかで、日米の社会システムに差がある」と鵜飼氏は語る。

 帰国した鵜飼氏は「自分が就職したい会社」としてFFRIを創業した。技術者がリスペクトされる社会を作るための、技術者からリスペクトされる会社だ。

 「エンジニアから見てすごいと思われる会社でないと意味がないと思った。コンピュータやネットワークのコアの部分で研究開発できる会社にしたかった」。

 この理念にそって、「コンピュータやネットワークのコアの部分」として、セキュリティを事業対象に選んだ。鵜飼氏の経歴だけで決めたわけではない。

“セキュリティ技術者”がほとんどいない会社

 FFRIの特徴は技術者の大部分が元ソフトウエア技術者であることだ。FFRI入社前からセキュリティ技術者だったのは、鵜飼氏を含めても片手で数えられるほどしかいない。

 「セキュリティ業界に迷惑をかけずに創業したかったから」と鵜飼氏は言う。日本のセキュリティ技術者の人数はまだそれほど多くはない。新たに創業した企業が人材を採用しようとすると、必然的に先行他社からの引き抜きになってしまう。

 「コンピュータサイエンスの基本がしっかりしている人であれば、セキュリティの世界にはスムーズに入っていける」。こうした考えから、セキュリティ分野の経験がないソフトウエア技術者の採用を進めた。