ビジネスの現場で使われ始めたARの要素技術は、さらに進化する。タブレットのような端末をかざさなくとも手軽に利用できるようになり、表示するCGもより本物らしくなっていく。ARを使ったシステムの開発も容易になりそうだ。今回と次回の2回にわたって、今後のARの進化を見通すための、四つの技術トレンドを紹介しよう。

 まずは、「メガネ型ディスプレー」と「レイトレーシング」だ。

軽量なメガネ型が登場

 現在、ARではタブレットが用いられることが多いが、今後はメガネ型の小型のHMDが主流になっていきそうだ(図1)。メガネ型のHMDは、カメラを内蔵している。現実にある風景や物の位置関係や形状を認識し、メガネを通して見える現実風景に仮想的な物体や情報を重ねて表示する。

図1●ARを用いるメガネ型ディスプレーやヘッドアップディスプレーの例
図1●ARを用いるメガネ型ディスプレーやヘッドアップディスプレーの例
メガネ型ディスプレーや人物前方のガラスなどに映像を表示するヘッドアップディスプレーなど、 従来のタブレットに加えてARで情報を提示する新たなディスプレーが登場している
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 例えば、米グーグルはメガネ型ディスプレー「Google Glass」を2013年末にも発売するとみられている。メガネ2個分ほどの重さで、右目向けに小型の透過型ディスプレーが備わっている。この4月に、これまで非公表だった仕様の一部が公表された。

 「Google Glass」に似た国産のメガネ型ディスプレーもある。2009年にARサービス「セカイカメラ」を発表して世界的な注目を浴びた頓智ドットの創業者、井口尊仁氏が2013年1月に立ち上げたテレパシーが開発した「Telepathy One」だ。

 こうしたメガネ型ディスプレーは、物流でのピッキング作業や工場の生産ラインでの作業支援、医療現場など、両手がふさがっていて手で端末を持つのが難しい分野で使われるようになりそうだ。

 自動車向けでは、ARの表示ディスプレーとして、フロントウィンドウ越しの風景に各種情報を表示できる「ヘッドアップディスプレー(HUD)」が登場している。パイオニアが自社のカーナビ向けにHUDを販売している。道案内などの情報を前方の風景と重ねて表示できる。

 通常のカーナビのように、道案内を見るために前方から視線をそらす必要がない。そのため、よそ見運転による事故のリスクを低減できる。将来は物流業務で配送経路などを表示するといった用途にも使えそうだ。