2010年12月期から10四半期連続で黒字を達成している企業がある。MVNO(仮想移動体通信事業者)事業を展開している日本通信だ。成長エンジンとなっているのは、スタッフ数を増やさずに多くの業務に対応する仕組み。同社は「クルーシステム」と呼んでいる。

写真1●日本通信の片山美紀代表取締役

 同社のオフィスは、東京タワーにほど近い高層ビルの最上階にある。フロアには仕切りがなく、スペースの端まで社員が働く姿が見渡せる。そこは日本通信が12年10月に移転したオフィスだ。フロア面積はかつての2倍以上。賃貸料も同等に増えた。

 「当社の収益は黒字とはいえギリギリの状況。清水の舞台からここへ飛び降りた」と片山美紀代表取締役常務はその時の心境を振りかえる(写真1)。新しいオフィスへの移転はクルーシステムを強化し、さらに成長を続けるための投資だ。

同社に部や課は存在しない。クルーシステム構成するのは15人ほどの「ファンクショナルオーナー」(業務リーダー)と70人ほどの一般社員である。社員は2時間単位で業務を行うが、この2時間単位の業務を同社は「スロット」と呼んでいる。基本は1日4スロットで、社員は本業のほか、他の業務も行うのが同社のワークスタイルの特徴だ。

 たとえば、あるネットワークエンジニアは朝9時から11時のスロットはコールセンターのオペレーターとして働き、それ以降の3スロットはネットワークエンジニアとしての業務を行うといった具合。

 受付にある電話で訪問を告げると、対応した社員は技術職でありながらその時間帯は総務の仕事に就いている。製造業の現場では、一人の社員がいくつもの作業をこなして一台の製品を丸ごと組み立てる多能工制度を導入しているケースがあるが、日本通信のクルーシステムのほうが業務対象はより広い。

写真2●クルーシステムのモニター
写真2●クルーシステムのモニター
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 社員の配置は、翌日の業務量に応じてファンクショナルオーナーが前夜に決める。社員は毎朝出社するとオフィスの壁に設置されている2つのモニターを見る(写真2)。

 モニターはいわば仕事の割り当て表だ。1つのモニターには縦軸に業務が配置され、横軸にスロットが設定されている。社員は、どんな業務をだれが行うのか、どの業務に何人が割り当てられているのかが分かる。もう1つのモニターには社員名があり、社員ごとにその日に就く業務を表示している。

 クルーシステムがスタートしたのは11年8月。オフィスの移転前だ。当時のオフィスは2つのフロアに分かれていた。業務の割り当て表は、マグネットタイプの名札を壁のボードに手で貼り付けていた。

 1年間その仕組みでクルーシステムを推進したが限界があった。ビジネスには新しい業務が次々と発生する。ボードに名札を張る方法では、新しい業務を設定して割り当て表を素早く作りかえることが難しくなった。また、フロアが分かれていたために社員は業務の割り当てに応じてフロアを移動していた。割り当て表を電子モニターとすること、オフィスをワンフロアとすることが、クルーシステムの機能を生かし、拡張させるために必要だったのだ。