リーマン・ショック後、要員や販売管理費などのコスト低減に努めてきたIT業界が、ようやく動き出そうとしている。好調だった2013年3月期決算をばねに攻めの投資に転じることが、今後の成長を左右するからだ。

 「多くの企業でIT支出の抑制が解け始めている」――。13年6月、調査会社のIDCJapanはこう指摘し、通信・メディア、消費者以外の全産業で13年はIT支出がプラス成長になると発表した。ユーザー企業の業種別にIT支出をみると、組み立て製造業は全体で前年比1.6%増の1兆3848億円、プロセス製造業は同2.1%増の7410億円になると予測している。これに伴い、ITサービス業界でもデータセンターの新設・拡充やインターネットビジネス向けのインフラ拡充への投資が進み、IT支出は3.0%増の7743億円になると見込んでいる。

 安倍政権も企業の投資を後押しする構えを見せている。政府は6月12日、安倍首相が議長を務める産業競争力会議で投資減税を盛り込んだ成長戦略を決定した。その決定に基づいて具体策をまとめた法案を今秋の臨時国会に提出する計画だ。

 こうした追い風を利用し、IT業界は自己変革に挑みつつある。狙いは「4つの企業力」強化だ。たとえば、自らIT投資を実践し、「ワークスタイル変革」を推進したり、受託開発とは異なる自前ビジネスの強化を目指して「人材教育」を進めたりする企業がある。組織運営や事業オペレーションの「効率化」に費用を投じるケースや、「開発の自動化」に投資する企業も出てきている。各企業に取材し、IT業界が進もうとしている新たな方向性を示してみた。

「隗より始めよ」と自ら実践

写真1●ネットワンはビデオ会議で業務スピードの向上を狙う
写真1●ネットワンはWeb会議で業務スピードの向上を狙う
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 本社や支社も含めて「イノベーションオフィス」と銘打ち、13年4月からワークスタイル変革に取り組んでいるのがネットワンシステムズだ(写真1)。本社を東京駅前のビルに移転すると同時にICTインフラを刷新。「我々自身、昔ながらの働き方を変えなければ成長はない。投資額もかなりの金額になる」と篠浦文彦執行役員は話す。

 離れたオフィスで働く社員同士が、Web会議の導入で移動せずにミーティングできる環境を整備したほか、VDI(仮想デスクトップインフラ)を採用してセキュリティを保ちつつ、私物端末を自宅や顧客先など社外で利用するBYOD(私物デバイス活用)も採用している。Windowsパソコンに加えてタブレットやMacなど、社員はそれぞれ使い慣れた端末を業務に用いている。新しいIT活用がスタートしてまだ2カ月だが、「顧客と面接する時間が従来に比べ、20%増えた」と、篠浦執行役員は早くも手応えを感じている。

 同社は本社オフィス内に「見学エリア」を用意。社員の働く姿を顧客にも見せることで新たなビジネスチャンスにもつなげようとしている。特にBYODは情報漏えいにつながるとして足踏みする企業が多いが、自社をモデルケースにすることで、ソリューション提案がより具体的になるわけだ。