写真●日本放送協会 メディア企画室 専任局長 加藤久和 氏
写真●日本放送協会 メディア企画室 専任局長 加藤久和 氏
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 「ハイブリッドキャストは広がりをもたらすものです」

 日本放送協会(NHK)メディア企画室の専任局長の加藤久和氏に、ハイブリッドキャストが日本の放送にもたらす影響を尋ねたところ、こんな答えが返ってきた。

 ハイブリッドキャストは、放送番組と関連する映像や番組情報を通信回線経由で取得し、テレビ画面上に表示できる放送・通信連携サービスである。NHKは2013年中にハイブリッドキャストの開始を予定しており、加藤氏はその旗振り役を担っている。

 広がりとはたとえば次のようなことである。テレビとスマートフォンやタブレット端末との連携が可能になり、映像や情報をテレビでもタブレットに表示できるようになる。

 グルメ番組を例にとると、場面ごとに店舗の詳細情報や周辺地図といった本来ならネットで流すコンテンツを、番組本編の映像と同時にテレビ画面上で表示できる。

 ハイブリッドキャストによってインターネット上の情報やコンテンツを提供することで、千差万別なニーズに対応する道が開ける。テレビ番組は放送局が不特定多数に一方通行で提供するもので、多種多様な嗜好を持つ視聴者の情報ニーズに対応するには限界があった。

 さらにテレビに加えてスマホやタブレット端末が活用できるため、視聴者がテレビの視聴時に接触できる情報やコンテンツが飛躍的に広がる。従来のテレビ放送には、番組の放送時間やテレビ端末の画面の大きさといった時間的・物理的な制約があったが、ハイブリッドキャストはこれらの制約をクリアできる。

 ハイブリッドキャストに対しては民放局や受信機メーカーも、その動向をみている。放送業界全体でハイブリッドキャストを推進するには、この分野の先行事業者であるNHKが新サービスの提供などで先鞭をつけることが欠かせない。

 番組の制作現場と協力して、サービスの成功事例を作り上げるとともに、視聴者に放送番組の新たな楽しみ方を提案できるか――。ハイブリッドキャストの伝道師である加藤氏の今後のさらなる活躍が期待される。


長谷川 博
日経ニューメディア
 日経ベンチャー(現・日経トップリーダー)、日経情報ストラテジーなどを担当。現在の担当分野は放送業界で、各局の放送通信連携サービスに対する取り組みや、スーパーハイビジョンの実現に向けた動き、多チャンネル業界の現状や今後などをテーマに、日々取材をしている。