日本のIT・デジタルの製品・サービスの中で今、世界的に「最強」なものはどれか?
こう問われたら、筆者は迷わず、カメラに使われる「イメージセンサー」(撮像素子)を挙げる。アジア製品の台頭で日本のデジタルが苦戦する中、イメージセンサーは他の追従を許していない。
特に「Exmor R」と呼ぶソニーの裏面照射型のイメージセンサーは、小型・高画質カメラを搭載するスマホ市場をほぼ押さえている。ソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia」はもちろん、日経BPの調査によれば、米アップルの「iPhone 5」や韓国サムスン電子の「Galaxy」シリーズにも採用されている。我々の身の回り、もっと言えば世界中がExmor Rに囲まれているといってもよいほどだ。
そのExmor Rを開発したのが、ソニーの野本哲夫氏である。日本のデジタル技術を支えるコア中のコアといえる人だろう。(野本氏の実績:Exmorの論文(PDF)、Exmor Rの論文(PDF))。
欧米やアジア勢も太刀打ちできないのは、その圧倒的な性能、すなわち高いイメージクオリティである。これが他を引き離している直接的な理由だが、素朴な疑問が生じる。
なぜ、他社・他国にはできないのか? 今もなお健在の“ソニークオリティ”の源泉は何なのか?。
面白いことに、これとほぼ同じ疑問を、野本氏自身が13年以上前に抱いていた。もともと野本氏はソニーに転職する前、オリンパスでデジタルカメラのイメージセンサーを開発していた。
当時、カメラ用イメージセンサーの主流だった「CCD」の性能は世界的にソニーが他を圧倒していた。野本自身も「もう、それは、ぶっちぎりのダントツでした」と語気を強めるほど、他メーカーは全く足元にも及ばなかった。オリンパスでCCDの開発に日々明け暮れていた野本氏から見ても、秘密がわからなかった。
「どうして、ソニーのはこんなにいいんだ。何が違うんだ」。
野本氏の心は次第にソニーの技術に取りつかれるようになっていた。「その秘密を、人生の中で一度見てみたい」。
そう思ってソニーへの転職を決意した。「スーパーな技術者たちが、ものすごくスマートな方法で開発していんだろうな」。ソニーに入る前はそう妄想していた。
ところがソニーの中は予想と全く違っていた。