写真●佐渡総合病院外科部長/佐渡地域医療連携推進協議会理事 佐藤賢治 氏
写真●佐渡総合病院外科部長/佐渡地域医療連携推進協議会理事 佐藤賢治 氏
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 「努力は必要だし、頑張らなければならないこともある。でも、自己満足や押しつけの努力や頑張りでは、何も変わらない。状況を悪化させることもある。一番いいのは、誰もが頑張らなくても済む方法や仕組みを作ること」。

 新潟県にある佐渡総合病院外科部長の佐藤賢治氏は、淡々とした口調ながらも、熱い思いを秘めた眼差しでこう語る。

 佐藤氏のミッションは、佐渡島に住む人々の命を守ることだ。シフト勤務はあるものの、事実上は24時間体制で急病人や重症患者と向き合っている。外科医師の仕事は、知力と体力、集中力が欠かせない。腕が衰えないよう、日々の鍛錬やスキルアップも不可欠だ。

 これほどハイストレスな場に身を置いているにもかかわらず、佐藤氏は自らもう一つのミッションを自分に課している。佐渡島の地域医療をITで変革するプロジェクトだ。

 少子化高齢化、医師不足、止まらない過疎化――。近い将来、日本各地が遭遇するであろう課題に、まさに今、直面しているのが佐渡島だ。

 東京23区の約1.4倍(855平方キロメートル)の広さを持つ島に住んでいるのは、わずか6万人余り。その36.8%は65歳以上のお年寄りである。高血圧症などの慢性疾患患者は少なくなく、脳梗塞などを発症する高齢者もいる。ところが、人口10万人に換算した医師数は134.6人(2009年厚生労働省調べ)と、全国平均の224.5人を大きく下回る。

 「このままでは住民が安心して生活できない」(佐藤氏)。そこで佐渡島では、島内の総合病院や診療所、調剤薬局などのシステムを連携させる「さどひまわりネット」プロジェクトが始まった。患者の医療情報を共有することで、医療の効率化と品質維持を実現する(関連記事)。

 佐藤氏はこのプロジェクトの推進団体である佐渡地域医療連携推進協議会の理事を務める。しかも、佐藤氏が自らシステムのアーキテクチャーを考えたり、ユーザーインタフェースの基本デザインを描いたり、ITベンダーや関係医療機関などと利害を調整したりしている。

 この手のプロジェクトでは得てして理想論を追い求めがちだ。機能満載なシステムを構築し、医療機関に新たな機器やシステムを導入する。地域の医療機関や保険機関のコストは増大し、しかもID管理やデータを入力・活用のために、医師やスタッフの作業が増える。いろいろな面で疲労が蓄積し、一部しか使われず維持するのさえ困難なシステムや仕組みができあがる。