写真●ETSI(European Telecommunications Standards Institute)ボードメンバーの釼吉薫氏(撮影:新関 雅士)
写真●ETSI(European Telecommunications Standards Institute)ボードメンバーの釼吉薫氏
(撮影:新関 雅士)
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 NEC Europeに勤務する釼吉薫氏は日本人として初、そして現在唯一のETSI(European Telecommunications Standards Institute)ボードメンバーである。釼吉氏は2011年11月に選出されており、2012年から2014年までその任に就く(関連記事「NECの釼吉氏が標準化団体ETSIのボードメンバーに就任、日本人として初」参照)。

 ETSIは欧州に3つある地域標準化団体の1つ。ITUなどの国際標準化団体で活躍する日本人は少なくないが、こうした地域の団体で日本人が要職に就くのは極めて稀なことだ。

 地域団体といっても、通信分野の標準化において、ETSIの存在感は大変なものである。ITU-Tなどの国際標準化に先駆けて仕様を作成し、それが事実上の標準になった例がNGN(Next Generation Network)をはじめとしていくつもある。

 3G/4G(第3世代/第4世代携帯電話)の標準化団体である3GPPの設立にも大きな影響力を発揮した。英BTなどの大手通信事業者、スウェーデンのエリクソンといった大手通信機器ベンダーが積極的に活動しているからだ。

 その一方、日本から見ると、ETSIは欧州だけでまとまって物事を決めている団体という印象が少なからずあり、近寄り難い存在でもあった。

 そんなETSIのボードメンバーを務める釼吉氏は、1988年にITU-T(当時はCCITT)に参加し、今ではSG(研究委員会)11の副議長も務める標準化のスペシャリストである。NEC Europeのロンドンオフィスに勤務するが、1年のうち200日は海外にいるか飛行機に乗っている日々を過ごしている。

 ITU-Tの活動が長い釼吉氏だが、ETSIのボード会議に参加して実感したのは「実にいろいろな意見が出て、オープンによく議論する」ということだった。投票で決めるITU-Tと比べて、挙手で決めることも多いETSIは決定が早いという。

 なかなか実態がつかみにくかったETSIの内部に飛び込んだ釼吉氏が、その良い面をTTC(情報通信技術委員会)など日本の標準化団体にフィードバックしてくれるという期待は大きい。

 ただし、企業人として標準化の活動を進めていくことは、会社の業績に結び付くことばかりではなく、評価されにくい面もある。「何のために標準化をやっているのでしょうか」とあえて釼吉氏に聞いてみたところ、次のような答えが返ってきた。

 「基本は世のため、人のため、日本のためであり、そして最後に会社のため」。

 標準化の活動は、発展途上国の支援や、将来的なネットワークの検討など、企業活動の枠を超えた成果を生み出す。ただし会社の業務として参加する以上、最終的には何らかの形で会社の業績に結びつけなくてはいけない。

 工夫しながら進めていけばよいと釼吉氏は語る。標準技術を自社製品に反映する、海外の事業者と良好な関係を築く、国際市場でプレゼンスを高める――。なるほど成果の生かし方はいろいろあるというわけだ。

 日経コミュニケーションで実施した釼吉氏へのインタビューを公開したので、こちらもご覧いただきたい。


加藤雅浩
日経コミュニケーション
 日経エレクトロニクス、日経NETWORKを経て、2013年1月より日経コミュニケーション編集長。通信を中心に、コンピュータ、家電、自動車との境界領域に関心を持つ。