写真●日本航空(JAL)Web販売部1to1マーケティンググループの渋谷直正氏(撮影:村田和聡)
写真●日本航空(JAL)Web販売部1to1マーケティンググループの渋谷直正氏
(撮影:村田和聡)
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 日本航空(JAL)にはビッグデータ分析を専門に手掛けるデータサイエンティストがいる。それがWeb販売部1to1マーケティンググループ主任の渋谷直正氏だ。

 渋谷氏の役割は、月間で2億ページビューに達するウェブサイトのデータを分析し、航空券の販売拡大につなげることだ。JALのサイトは年中無休で航空券を売る販売店のようなもの。渋谷氏はその営業マンとして、日夜データを解析し、顧客に響く販促を練っている。

 そんな渋谷氏がデータサイエンティストとして心掛けているのが、「単なるデータ分析オタクになってはいけない」ということ。何よりも「収益への貢献が大切」と渋谷氏は力を込める。そのためには業務知識が不可欠と考えている。

 そう強く思うきっかけになったのが、国際線の販促キャンペーンで失敗したことだ。データ分析の結果は良好で収益に貢献する可能性が高い施策だったにもかかわらず、国際線の担当者からはストップがかかった。

 なぜか。それは販促をしなくても、座席が埋まる繁忙時期だったからだ。渋谷氏は過去に国内線の営業を手掛けたことはあったが、国際線の経験はなかった。国際線の業務知識の不足が結果として、独りよがりの分析を生んでしまった。こうした経験を踏まえて、渋谷氏は業務知識を踏まえた分析をより強く意識するようになった。

 まだまだ道半ばだが、徐々にデータ分析の成果も出始めている。例えば28日前までにチケットを予約すると割引料金を適用する「先得」で、データ分析の結果を踏まえて見せ方を変えたことで、購入が3倍になったケースも出た。

 ITベンダーを中心に、データサイエンティスト熱は高まるばかりだが、本当に求められているのは、渋谷氏のように業務知識と分析スキルを兼備した人材だろう。このところJALといえば稲盛和夫名誉会長に注目が集まる。筆者としては、データサイエンティスト渋谷氏にこそ注目したい。


山端宏実
日経情報ストラテジー
 日経コンピュータで2年弱働いた後、日経情報ストラテジーに移った。今はユーザー企業の「データサイエンティスト」に関心を持ち、取材活動を進めている。