写真●JUAS ITサービスマネジメント研究会長 上野耕司 氏
写真●JUAS ITサービスマネジメント研究会長 上野耕司 氏
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 「情報システムの運用は、高度なマネジメント能力を要し、重要かつ難易度の高い業務領域だ」。

 日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)でITサービスマネジメント研究会長を務めるJX日鉱日石インフォテクノの上野耕司氏(システム統轄部副部長兼システム統轄グループマネージャー)はこう強調する。

 上野氏は数年前、システム基盤の運用コスト削減に取り組んだ。まず、運用コストの構造をモデルで表現するととともに、現状の運用プロセスを明確にし、それぞれのプロセスが生み出すビジネス上の価値を評価した。

 システムを運用する際には、各システムが支える業務がビジネスにおいてどのくらい重要なのかを理解することが求められるからだ。

 その上で、縮小や廃止によって効果的にコストを減らせるプロセスを特定していった。半年間の取り組みを経て、外部委託コストをそれまでより4割も減らすことに成功した。まさにマネジメントの結果と言える。

 「運用におけるコストコントロールはシステム開発よりも難しい」(上野氏)。既に動いているシステムを止めることはできない。やみくもにコストを下げれば、システムのサービスレベルが低下するリスクが増大する。

 したがって、まずコストと価値、コストとリスクの関係をそれぞれ明らかにしなければならない。「なぜこれだけのコストが必要なのか」「これだけのコストを削減すると何が起こるのか」といったことを説明できるようにする。そうでなければ、サービス品質を維持しつつ適切にコストを削減するという、相反することを実現できない。

 だからこそ上野氏は「今後のITサービス担当者に必要なのは、ものごとを概括的に抽象化して捉え、本質的な課題を抽出して解決する力」と指摘する。

 現在の情報システムの構造は複雑だ。多様な構成のサーバーが数多く存在し、多数のシステム運用プロセスがからみ合う。したがって運用の対象となるシステムを支えている個別の要素技術に関するスキルも求められるが、それだけで十分ではない。

 上野氏は「今後は運用の領域に、マネジメントの視点を重視した『ITサービスマネジャー』の役割が浸透する必要がある」と話す。そのための啓蒙活動や情報発信にも取り組んでいきたいという。

 事業への貢献を意識したITサービスマネジャーには、本質的課題に切り込む攻めの姿勢が求められる。「運用は受け身の存在だから」「開発の後工程だから」という姿勢をとってしまうと、運用は守りのルーチン仕事になってしまう。


森重和春
日経BPシステム運用ナレッジ
 日経Windows NT/2000、日経システムプロバイダ、日経ソリューションビジネス、日経SYSTEMSで記者・副編集長を務めた。現在は2013年4月にスタートした、システム運用担当者のための専門サービス「日経BPシステム運用ナレッジ」の責任者を務める。