写真●Raspberry Pi財団設立者 エベン・アプトン氏
写真●Raspberry Pi財団設立者 エベン・アプトン氏
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 「こんなコンピュータを25ドルで実現できれば、子供達が自由な発想でプログラミングできるようになります」

 発売から1年強で120万台を出荷した名刺大の格安PCボード「Raspberry Pi」を、エベン・アプトン氏が開発したきっかけは冒頭のメッセージを全世界に発信してしまったことだった。

 メッセージは英BBCの著名なジャーナリストのブログから流れた。アプトン氏が最初に作ったプロトタイプと開発の狙いを、このジャーナリストに話したところ、Raspberry Piのプロトタイプを紹介する動画とともにメッセージがアップされた。

 この動画は2日間で60万回ものアクセスを受けた。ブログのおかげでアプトン氏は、25ドルのボードを本気で設計し、製造することになった。

 元々は英ケンブリッジ大学の学生向けに作る予定のものだった。ケンブリッジ大学で2005~2006年に教鞭を取っていたとき、多くの学生にプログラミングの経験がほぼないことにアプトン氏は驚き、「子供の頃から安価で自由に遊べるボードが必要」と考えるようになった。

 ケンブリッジ大学を離れた後、ARMプロセッサ(SoC)ベンダー(英ブロードコム社)でチップデザインのアーキテクトを務めた。その知見を生かして25ドルで実現できるボードを設計。資金を集め、メーカーに製造を委託し、Raspberry Piのライセンスで財団を運営するスキームを少人数のチームで作り上げた。

 いまでは世界中で、Raspberry Piが様々な用途で活用されている。現時点のユーザーはコンピュータ好きの大人が中心だ。実際の製品に組み込む事例も増えてきており、個人が製品を作ってしまう「メーカーズムーブメント」の一翼を担っている。

 一方、その大人が自分の子供に与えて自由に触らせたり、一部の学校が授業に取り入れたりするなど、教育分野での活用も広がりつつある。

 日本でもユーザー会「Japanese Raspberry Pi Users Group」が設立され、2013年5月にはアプトン氏を招いた大規模なイベント「Big Raspberry JAM TOKYO 2013」が開催された

 この小さな格安PCはITの新たな活用法を生み出していくだろう。


安東 一真
日経Linux
 日経コンピュータや日経バイトの記者を務めた。IT技術の大きなトレンドと細かい話の両方に興味を持つ。