今、IT業界はもとより日本企業にとって注目されている国がミャンマーだろう。筆者は2013年5月上旬にミャンマーの代表的な都市であるヤンゴン、バガン、マンダレーを視察し、現地や日系企業の人々などと意見交換する機会を得た。さらに現地のITインフラ事情も体験してきた。あくまで筆者の聞き及ぶ範囲だが、そうした生の情報を交えて、「アジア最後のフロンティア」といわれているミャンマーを、日本企業にとっての新規マーケットやオフォショア開発の拠点としてとらえた場合の優位点と課題点をまとめてみた。

写真1●活気あふれるヤンゴン市内
写真1●活気あふれるヤンゴン市内
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 ミャンマーという国名は、1989年6月18日にそれまでの英語による対外的な呼称であったビルマ(Burma)からミャンマー(Myanmar)に変更され、2010年にはミャンマー連邦共和国(Republic of the Union of Myanmar) という国名になった。政治体制では、かつての軍事政権から共和制国家として民主化路線を進み、12年に米国が経済・金融制裁を解除したので、多くの外国企業が進出しやすい環境になった(写真1)。

図1●ミャンマーの年齢別人口構成    出典:US Census Bureau 2011
図1●ミャンマーの年齢別人口構成
出典:US Census Bureau 2011
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 特に重要なのは、人口と年齢構成だろう。IMF(国際通貨基金)の推定によると人口は6242万人(2011年)で隣国のタイとほぼ同じ。年齢別では、若年層の多いピラミッド型となっており、高齢者の多い先進国の逆ピラミッド型とは正反対になっている(図1)。しかもIMFでは11年の一人当たりのGDP(国内総生産)はタイの7分の1程度とされるので、今後のポテンシャルは非常に大きいとみられている。これらが「アジア最後のフロンティア」として「消費地」と「製造拠点」の両面で注目をあびている理由だ。

街中では台湾や中国、韓国企業が目立つ存在に

 ミャンマー国民は一般的に、日本製品や日本人に非常に良い印象をもっているといわれている。

 現地の人に聞くと、冷蔵庫や洗濯機のような白物家電では、「National(ナショナル)」(現パナソニック)や「Hitachi (日立)」のブランドが強く、安くても中国製品は人気がないという。自社の白物家電が売れない中国メーカー企業が、Nationalブランドが強いことを知り、Nationalの前に小さくInterをつけ「Inter National」として売り出したという話も聞く。特にNationalブランドは非常に強く、現地でパナソニックのブランドはあまり浸透していないのでは、という人もいるほどだ。

写真2●街中には韓国IT企業の宣伝が目立っていた
写真2●街中には韓国IT企業の宣伝が目立っていた
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 だがIT企業となると、筆者の印象では日本企業はあまり目立っていなかった。逆に中国や台湾、韓国のIT企業の看板が街中ではよく目についた(写真2)。

 言語についても親近感があるようだ。ミャンマー語は語順や文法が日本語とあまり変わらないため、マスターしやすい、という現地でガイドを務めてくれたミャンマー人は言う。日本政府の視察や経団連、一般企業のガイドも担当した人で、顔は日本人のようで日本語も完璧、知識も豊富だった。経歴を聞くと、ミャンマーのトップの大学に入学したが、軍事政権時代の学生運動で退学処分を受け、日本で2年ほど日本語を勉強するかたわら、居酒屋の店員といった職業を経験してきたという。こうした人もいるためか、日本や日本人に好感をもつ親日派が多いと聞く。

 注目されるのは、ミャンマーの国内IT市場がまだ大きくないため、IT関連学校の卒業生の就職率が低い点だろう。そのため現在は、新卒で優秀なIT人材を比較的、採用しやすいといわれる。ITエンジニアは医師とならび人気のある職業であり優秀な人材が集まっているからだ。中国や韓国と比較すると日本は好きな国でイメージもよい。日本語をマスターすればキャリアアップにもつながるというわけだ。