写真●遠藤紘一氏・政府CIO(撮影:陶山勉)
写真●遠藤紘一氏・政府CIO
(撮影:陶山勉)

 「誰かがやらなければならない。リコーで業務プロセスを改革してきた私の経験をここで生かすべきだと覚悟を決めました」。

 リコー元副社長の遠藤紘一氏は2012年8月、政府の情報システムを統括する最高責任者、政府CIOに就任した。

 この重責を引き受けた理由を記者が尋ねたところ、遠藤氏は当初、「女房からは『絶対にやめて』と言われたんだけどねえ」と答え、笑った。「もう46年も頑張ってきたんだから、ゆっくり休んだら、と諭されました」。

 1966年にリコーに入社した遠藤氏は、業務プロセスの改革を伴う数々のシステム導入プロジェクトを主導し、生産、在庫、販売などメーカーとしての業務を支える基幹システムを構築した。「今の業務の何が問題なのか」を現場の利用部門と共に考え抜くスタイルで、業務の改革とシステムの導入を成功させた。

 そんな遠藤氏も、システム開発をめぐるITベンダーとの折衝では、何度も悔しい経験をしたという。システムを設計してベンダーに開発を依頼したが、完成したシステムが期待したように動かない。足りない点を指摘するとベンダーからは「いただいた設計の通り作りました。最初からその要件を書いてくれれば作りましたが」と言われてしまう。

 「だから利用部門の力を借りて設計について必死で工夫しました。そうしてできた“設計図”には現場の知恵が詰まっています」(遠藤氏)。

 そんな遠藤氏だけに、既存の業務プロセスをそのままにしておいて、ITベンダーに開発や運用を丸投げする政府システム調達の現状には見過ごせないものがあったのだろう。政府CIOを引き受けた本心が冒頭の発言に現れている。

 遠藤氏は2013年6月4日、政府CIOに法的位置づけを与えた「内閣情報通信政策監」に任命された。「国民や民間企業に役立つシステムでないと意味がない」を信条に、マイナンバー関連システム導入の陣頭指揮に立つ。


浅川直輝
日経コンピュータ
 日経エレクトロニクス、日本経済新聞を経て現職。技術、ビジネス、社会を横串にさせる記者を目指す。