台湾 工業技術研究院研究員、Open Embedded Software Foundation CTO 今村 謙之氏

 ハードウエアの超小型・軽量化が進み、スマートフォンやタブレットのモバイル機器を超え、「Google Glass」や腕時計型コンピュータなど新たな機器が生み出されつつある。これに伴い、ハードウエアとソフトウエアの融合も本格化してきている。

 今村謙之氏は現在、台湾の次期産業のための基礎研究を進める政府機関「工業技術研究院」の研究員として、Google Glassのようなメガネ型ウェアラブルコンピュータのためのソフトウエアの開発を支援中だ。オブジェクト(対象物)に近づけば大きく映るようなAR(拡張現実)技術を使い、Google Glassの一歩先を行く3次元的な表示を可能にする。

 「こうしたハードウエアとソフトウエアの融合をオープンソースコミュニティーを中心とした活動が加速させている」。

 今村氏自身、工業技術研究院に在籍しながら、日本の組み込み系ソフトウエアの推進団体であるOpen Embedded Software Foundation(OESF)や、ARMプロセッサに関するLinuxカーネルの開発を進めるLinaroのメンバーだ。LinuxとAndroidを中心のテーマとし、欧米やアジア諸国、南米まで展示会に出向き、各国の技術者と交流する。こうした活動が新機器の開発に欠かせないからだ。

 「複雑なシステムが超小型機器に集約されている今、これらを1社や1団体で作っていくことは難しい」と今村氏は強調する。ハードウエアもソフトウエアも、公開された情報を基に、ある技術者が改良を加え、別の技術者がそれを利用して改良する。こうした“Give & Given”のスパイラルが必要不可欠となっている。

 この動きは技術者個人にも影響を与える。オープンソースコミュニティーで開発されたものを用い、容易に複雑なシステムを作れる。低価格のPCボードや3Dプリンターも増え、製品のプロトタイプを個人で作れる環境も整ってきた。

 新システムを開発して起業するハードルが低くなり、シリコンバレーでは起業の機運がさらに高まっている。シリコンバレーで開発者がチャットを通じてその場で仲間を見つけられるカフェを見て今村氏は「スピード感の違いに驚いた」という。

 「オープンソースのソフトウエアとハードウエアを使い、自らのアイデアを製品として実現する」。こうしたエンジニア兼起業家たちの活動を今村氏は「21世紀型エンジニアライフスタイル」と名付け、実践する。

 この潮流を実感としてつかみ、動き出すエンジニアが日本でこれから増えるだろう。今村氏にはその先駆者として活躍していただきたい。

森側真一
日経Linux
日経データプロ、日経オープンシステム、日経コンピュータの記者・編集委員を務めた。OSやミドルウエア、オープンソース関連の技術や動向に関心を持つ。2011年7月より日経Linux編集長。