写真●花王情報システム部門統括付部長 大路延憲 氏
写真●花王情報システム部門統括付部長 大路延憲 氏
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 「予測はピタリと当たるのかと聞かれれば、それは難しい。だが一定の誤差の範囲内であれば予測は当たる」

 花王の大路延憲情報システム部門統括付部長はこう語る。大路氏は全社のSCM(サプライチェーン管理)再構築プロジェクトに参画し、新製品の需要予測などデータに基づく業務プロセスの再設計を推進してきた。

 花王に限らず、多くの企業にとって在庫の最適化は永遠のテーマであり、需要予測システムを開発するところは少なくない。だが「需要予測システムを作ったところで、そもそも予測など当たらない」という指摘は少なくない。

 「予測は意味があることなのだろうか」と大路氏に疑問をぶつけてみたところ、冒頭の回答が返ってきた。

 実際、花王は様々な日用品について、過去の生産量や販売量の動向を分析し、日々の需要を予測し、在庫の最適化を図っている。需要予測システムを構築したことで、商品在庫を30%削減したり、欠品レベルを従来の3分の1に減らしたりするなど成果を上げている。花王にとってデータ分析とその結果を生かした経営のスピードアップは厳しいグローバル競争に打ち勝つために不可欠な取り組みだ。

データサイエンティストのさきがけ

 「データが語る」。これが大路氏のモットーだ。データは様々なことを語りかけてくれる。これを生かして、業務改革や意思決定の速度を高めることができるかどうかが重要というわけだ。

 大路氏のこれまでのキャリアには必ずといっていいほど、データ分析が登場する。花王の生産技術研究所や精密加工研究所、数理科学研究所で研究に従事した後、ロジスティクス部門部長に就任、ここで全社SCM構築プロジェクトに関わった。

 2003年には、データ分析の結果を商品施策や販促に生かす隠密組織「DBM(デジタル・ビジネス・マネジメント)」を作り、データに基づく経営強化に尽力してきた。2007年からは情報システム部門のトップとして、グローバル標準システムの整備を指揮した。業務用語、ビジネスプロセス、ルール、KPI(重要業績指標)などを世界で統一し、世界中から売り上げや利益、在庫など様々なデータを収集できる体制を整えた。

 ビッグデータ時代と言われ、データ分析の重要性が改めて見直されている昨今、新職種として「データサイエンティスト」が脚光を浴びつつある。こうした時代にあって、大路氏の経験やノウハウは注目に値する。

 統計学、データ活用、業務知識、IT、情報化戦略など多種多様なスキルを身につけた大路氏は部内でよく勉強会を開く。「大路さんは本当に勉強家で博識。勉強会は本当にためになる」と部員の多くが声をそろえる。

 過去7年間、大路氏に何度も取材をさせていただいた記者も、大路氏との対話から多くを学ばせてもらった。

 「大路氏の経験とノウハウは多くのビジネスパーソンにとって有益。中でもデータサイエンスについて語ってもらいたい」。こう考えた記者は大路氏に「原稿を書いてほしい」と頼み込んだ。それが日経情報ストラテジーの連載『第一人者が指南するデータサイエンス術』である。是非、大路氏の頭の中身をのぞいてみてほしい。


戸川尚樹
日経情報ストラテジー
 日経コンピュータ、日経ソリューションビジネス、日経ビジネスの記者、副編集長を務めた。ITを活用した企業経営に関心を持つ。