前回は、マーケティングにテクノロジーを活用する必要性から、今後はCMOが関わるIT投資が増えることは間違いないことに触れた。

 また第2回で書いたように、CMOはマーケティングテクノロジストの側面が求められる。マーケティング施策で新たなテクノロジーを活用する時や、小さなPD(CA)∞サイクルを回すためにデータやテクノロジーを活用して振り返りをする時などである。

 CMOがシステム開発の素人だったとしても、それ故にIT業界の“常識”に流されることなく、純粋にマーケティングの観点から目的に沿ってテクノロジー活用を考えられる。

 これまで書いてきたように、今後はマーケティング全体で小さなPD(CA)∞サイクルを回すことが当たり前になってくる。すると必然的に、同じ流れがIT投資でも起きる。CMOはマーケティング部門で新たなテクノロジーを試してみて、結果が良ければ正式採用し、利用し続けることになる。

 実はIT業界には以前から、手段であるITを検証し、いけそうかどうかの当たりをつけようという考えがある。それは通称「PoC(ポック)」と呼ばれている。Proof of Conceptの略語だ。

 PoCは一般には「新たな概念やアイデアの実現可能性を示すため、簡単かつ不完全な実現化(または概要)を行うこと。あるいは、原理のデモンストレーションによって、ある概念や理論の実用化が可能であることを示すこと」と説明されている。

 端的に言うと「頭で考えたことが本当にできそうかどうか試してみよう。それでうまくいくかを確認しましょう」ということだ。

 これは素晴らしいアプローチだが、残念なことにIT業界のPoCは、システム的な証明をするだけにとどまることが多い。

 顧客データの活用を例に取れば、「実際に導入予定のハードやソフトで数百万件の顧客データが回りそうか」「どの程度のスピードで分析環境が動くか」などを証明することに主眼が置かれる。

 つまり、IT業界のPoCは「目的ではなく、手段の検証」から入ることが圧倒的に多い。IT業界はシステムを導入することが目的なので、自社の目的に向けてシステムの実現可能性を示すため、簡単かつ不完全な実現化を行うのは当然である。

 結果として、ビジネス的に効果が出るかどうかは、システムがカットオーバーし、実業務としてやってみてから、ということになる。

 本当にこれでいいのだろうか。