日本でも、CMO(Chief Marketing Officer、最高マーケティング責任者)という役職が脚光を浴び始めている。多極化する世界、複雑化する経営環境、変化の激しいマーケット、そして顧客ニーズの多様化──。

 好意的に捉えれば、経営の舵取りが難しい時代だからこそ、顧客視点で物事を考え、お客様に関連して売り上げにつながる業務を統括する役割が必要だよねと、「何となく」再認識されたということだと、私は推察する。

 「何となく」と書いたのは、「我が社にはマーケティングが足りない。よって、マーケティング機能を強化したい」という経営者の声は、10年以上前から何度も聞かれていたことだからだ。

 マーケティング強化という掛け声は、さも経営課題であるかのように扱われるが、その実、何も言っていない「思考停止ワード」になっていることが少なくない。

 思考停止ワードなのか、それとも本当に経営課題と捉えているのかは、いくつかの「問い」で確認できる。

  • ざっくりマーケティングと言っているが、自分たちの会社では、具体的にはどのプロセスを広義のマーケティングと定義しているのか
  • そのなかで、どのプロセスや機能が弱いと考えているのか。その理由や根拠は何か
  • どのプロセスや機能をどの程度強化したら、競争戦略上、強化されると考えているのか。その理由や根拠は何か
  • それで本当に競合に勝てるのか。それで本当に顧客への価値提供が向上するのか

 仮説でもいい。この問いにきちんと答えられれば、「経営課題をマーケティング視点で捉えられている」と言えるだろう。

CMOブームはIT業界の思惑通りか

 もしも明確な答えが用意できなければ、思考停止ワードとして、マーケティング強化を経営課題に掲げている「マーケティングシンドローム」の患者さんである。「人材強化が経営課題である」と騒ぎ立てることと、そう変わりはない。全ての企業にとって人材強化が大切であるのと同じように、全ての企業にとってマーケティングは重要な位置付けであるからだ。

 しかし、思考停止ワードだとしても、マーケティング強化という方針が打ち立てられ、マーケティング強化のために「CMOが必要だ」と考えられて脚光を浴び始めたのなら、まだ幸いだろう。

 実は一抹の不安がある。