2011年の東日本大震災と東京電力の福島第一原子力発電所事故によって住宅関連企業の経営環境は大きく変わった。特に福島県内における原発事故の影響は大きく、放射線に対する不安から新築案件が激減した。一方で震災からの復旧に伴って、修理・補修・リフォームをはじめとする細々とした案件はこなしきれないほどの状況になった。

 このように経営環境が変化するなか、クラウドサービスの一つである「エバーノート(Evernote)」と、その端末であるスマートフォン(スマホ)を現場に投入するなどによって経営状況を改善し、経済産業省が主催する「中小企業IT経営力大賞2013」の認定企業となったのが会津リビングサービスである。同社は、1カ月当たりの工事・メンテナンス件数を他社と比較して5倍以上こなし、併せて過去の工事履歴をしっかり管理することで多くの顧客から信頼を得ている。

リーマンショックで経営課題が浮き彫りになる

 会津リビングサービスは、1996年に福島県会津若松市で本田和也社長が創業・設立した住環境の施工、および水回りの修理を主業務とする事業者である。具体的には、システムバス/システムキッチン/トイレユニット/洗面室ユニット/洗面台/水栓/エアコン/灯油ボイラーなどの施工工事、および修理アフターサービスを行っている。

 一般的に住宅関連企業の仕事は、住機メーカーが販売した製品の現場施工が中心で、メーカー代理店からの作業依頼により業務が発生する受け身体質である。そして収益は、新規施工8割、修理アフターサービス2割の比率である。また、一般家庭における水回りの修理や補修は1件当たりの売上高が少なく営業効率が悪いことから積極的に取り組まない業者が多いことも業界の特徴でもある。

 しかし、リーマンショクによる景気の落ち込みで、収益の柱である新規施工案件が減少したため、住宅関連企業は修理やリフォームに事業をシフトせざるを得なくなる。悪いことに案件数の増加とともに管理が行き届かず、お客様やメーカーからクレームが出るようになったのも確かだ。また、住宅関連企業の現場スタッフは現場直行直帰が多く、社員同士のコミュニケーションが悪くなり、モチベーションの向上も経営課題としてクローズアップされていた。

現場で必要な情報はすべてクラウド上に保存

 これら経営課題の解決に向けて会津リビングサービスが、ITコーディネータ(ITC)である山口康雄氏(フクジンコンサルタンツ)の支援を受けて取り組んだのが、エバーノートをはじめとするクラウドサービスの活用とスマホの現場スタッフへの配布だった。メーカーから届く作業依頼書やマニュアルといった業務上必要な情報をすべてクラウド上に保存し、スマホからいつでも閲覧できるようにしたのだ。

 本田社長と山口氏が知り合ったのは2009年5月、地元金融機関である会津商工信用組合を通じてである。山口氏は「地域力連携拠点事業」の専門家として同社を訪問支援した。当時の課題はホームページの改修による販路開拓だった。この支援が一段落する2010年にはリーマンショクにより、会津リビングサービスの経営環境も変化していく。そこで同社は業務プロセスなどの見直しに着手した。

 山口氏の提案は、これまで本田社長がプライベートで使用していたエバーノートとスマホの「iPhone」を業務に使えないかというものである。本田社長もその利点には気づいていたが、試行錯誤している状態であった。山口氏は課題を整理し、情報整理方法の改善や検索キー付加による効率的な情報引き出し方法の採用などによって、導入に際して障害となっていた事項の解決に当った。

 エバーノートとスマホを利用すると、作業指示内容/現場までのルート/メーカーごとの工事マニュアル/施工事例といった情報を即座に確認できる。最初は現場スタッフに戸惑いもあったが、利用しているうちにその便利さが理解され、今では、なくてはならないツールとなるとともに、戦力強化のための強力な武器となっている。

 最近は、社内報や施工事例のビフォーアフターが参照できるなどエバーノートのコンテンツが充実してきている(写真1写真2)。

写真1●PCで見たエバーノートの画面
写真1●PCで見たエバーノートの画面
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写真2●スマホで見たエバーノートの画面
写真2●スマホで見たエバーノートの画面
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 また、顧客管理や請求書発行に使用する施工管理システムもクラウド化されており見積もり書や請求書がその場で印刷できる仕組みも見逃せない。そして作業員のスケジュール管理もマイクロソフトのOutlookというパソコンソフトウエアを使う。Outlookで管理するスケジュールはスマホのスケジュール機能と同期されており、本社パソコンのOutlookで必要な情報を入力することで、日々のディスパッチ業務も効率的かつスピーディにこなせるようになり、顧客に正確な作業日や時間を回答できるようになった。これによって顧客からの信頼度が向上し、クレームも導入前に比べ激減したことを特記しておこう。