3Dプリンターやレーザーカッターといった工作機械の低価格化によって、“ものづくり”のすそ野が広がっている。インターネット上には3Dプリンター用の出力データ共有サイトなども立ち上がり、誰もがものづくりに携わることができる環境が整ってきた。こうした動きは「Makerムーブメント」(Makerをメイカーと記述することが多いが、この記事ではカタカナで表記する場合はメーカーと記述する)によって出てきたものだ。趣味的なものづくりを楽しむ人から本格的なメーカーの起業を目指す人まで、ムーブメントとの関わりは様々だ。

 第1回はこうした動向に詳しい公立はこだて未来大学 システム情報科学部 情報アーキテクチャ学科の塚田浩二准教授(写真1同氏のWebサイト)にハードウエアベンチャー登場の背景などを聞いた。塚田氏は、おしゃべりな人を黙らせる装置「SpeechJammer」を産業技術総合研究所の栗原一貴主任研究員と共同開発した人物としても知られ、2012年には同装置でイグノーベル賞(Acoustics Prize)を受賞。自ら多くのハードウエアの設計・開発にも携わっている。

(聞き手は大谷 晃司=ITpro


ひところベンチャー企業といえば、スマートフォン向けのアプリだったり、ネットサービスだったりに脚光が当たることが多かった。最近はハードウエアを開発・販売するいわゆる“ハードウエアベンチャー”が注目されているようです。その背景には何があるのでしょうか。

公立はこだて未来大学の塚田浩二准教授
写真1●公立はこだて未来大学の塚田浩二准教授

 Makerムーブメントによって、元々技術は持っていたが表に出てこなかった人にスポットが当たったという側面があります。もう一つの側面が作る人のすそ野が広がったこと。今10万円前後の3Dプリンターが出てきて3Dプリンターそのものも話題になっています。「Make」(O'Reillyが主催するものづくりを実体験できるイベント)などに参加し、そこで作ったものを発表しているような人の需要を当て込んだものでしょう。作り手のパイが広い意味で増えて、その人たちに向けて作るための技術が普及していった。これが一つの軸としてあります。

 部品が入手しやすくなったことも背景にはあるでしょう。既に10年ほど前からそうですが、身近なところでは、無線LANモジュールやBluetoothモジュールなどが挙げられます。こうしたモジュールを組み合わせることによって、かなりのものが作れるようになりました。例えば「GoPro」は、モジュールの組み合わせの妙とも言える製品です(編集部注:GoProは米Woodman Labsが開発したヘルメットやサーフボードなどに装着できる超小型アクションカメラのシリーズ名。2009年に最初の製品が発売され、既に世界で300万台超の販売実績がある)。

 背景ということでは、そもそもIT、コンピューターやインターネットがなければMakerムーブメントは起こりえなかったし、それらがなかった時代は想像しがたい。3Dプリンターも出力データがインターネットで共有されることによって広まっている。