おしゃべりな人を黙らせる銃の形をした装置「SpeechJammer」をご存知だろうか。このユニークな装置をはこだて未来大学の塚田浩二准教授と共同開発したのが、産業技術総合研究所の栗原一貴主任研究員である。2人は、ユニークな研究を表彰するイグノーベル賞(Acoustics Prize)を2012年に受賞。さまざまなメディアに登場して話題になった。

 「栗原一貴: Kazutaka Kurihara's Website」をちょっとのぞいていただきたい。少しスクロールすると、プレゼン中に話の速度や抑揚が適切かどうかを教えてくれる「プレゼン先生」や、世界の衛星写真から人の顔に見える地形を自動探索する「Geoface Project」といった、ユニークな研究報告が次々に出てくる。

 このようなアイデアはどこから生まれているのだろうか。栗原氏に発想法について聞いてみた。

写真●栗原一貴氏・産業技術総合研究所 主任研究員(撮影:新垣 宏久)
写真●栗原一貴氏・産業技術総合研究所 主任研究員
(撮影:新垣 宏久)
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 「アイデアはさまざまな組み合わせから生まれます。それには脳内での試行錯誤が必要で、幸いなことに私は性格的に試行錯誤が好きなんだと思います。例えば、料理にさまざまな調味料をかけて食べてみるのが好きです。小学校の給食で『海苔と牛乳を一緒に食べるとメロンの味がする』と主張したこともありました」。

 また、考えたアイデアを実現するときには「万人受けする解決策」を狙わず、一部の人が強烈に好きになってくれそうな解決策やシステムを目指す。多くの人のニーズを満たすのは大企業のほうが得意だというのがその理由だ。

 自分に合った研究環境を模索することも大事だと語る。栗原氏自身、模索を経て、今の研究分野にたどりついた。

 当初は「博士になりたかった」という理由で農学系の東京大学理科二類に入学した。3年次になると「ロボットコンテストに参加したい」と工学部機械工学科を選択。ロボット工学を学びつつも「自分にはロボットに対する愛情や情熱が足りない」と思い直し、コンピュータ科学に転身している。

 「ヒューマンコンピューターインタラクションという研究分野はユニークな研究に寛容です。結果的に良いところを選べました」と振り返る。

 栗原氏は現在、視線入力をマウスやタッチなど既存のユーザーインタフェースと組み合わせる研究を手がけている。これからも使っていて楽しくなるシステムや製品を発明してくれそうだ。


大橋 源一郎
日経パソコン編集
 日経PC21、日経ベストPCなど、一貫してパソコン雑誌を担当。複雑そうだが便利な機器やシステムを分かりやすく解説して、多くの人に使ってもらいたいと考える。