自由民主党の「新たなICT戦略に関する提言 デジタル・ニッポン2013 -ICTで、日本を取り戻す。-」(以下、「自民提言」)の第三部は「ICTによる農林水産業振興」(以下、「農業提言」)だ。「農林水産業のICT政策」を正面から取り上げたのは、おそらく初めてだろう。

 「和食」に絡めた日本の農畜産物の輸出に焦点があたりがちだが、日本の食料自給率が40%程度であることを考えると、農林水産業の現場の効率化、ブランド産品の競争力強化、は重要な論点だ。ICT化のポイントは、「見える化による攻めの農林水産業」「ICTによる効果の拡大」の2つだ。

ICT化の阻害要因はリテラシー、規模、コスト

 農林水産業者は、各々が事業者/経営者である場合が多い。経営者であれば、有効と判断すれば当然ICTも導入する。それを阻んでいる最大の要因は、ITリテラシー不足だ。IT業界でも「農業は儲からない」という共通認識があり、一部のベンダーを除いてあまり力を注いで来なかったのが実態だ。

 次に大きいのが、規模の問題だ。日本の農業耕作地は諸外国と比べて小規模なので、ICT導入の効果が出にくいのだ。小規模なため、ICTにかける手間/労力、コストが負担となり、ICT化したくともできないという事情がある。

図1●農業でICT化に進まなかった理由
図1●農業でICT化に進まなかった理由
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2つの方向性と4つの論点

 農業提言における「基本的な考え方」には、以下の2つの方向性と4つの論点が示されている。

方向性1:見える化による攻めの農林水産業実現
  論点1:経営管理の仕組みの提供
  論点2:6次産業化への貢献
方向性2:ICT導入効果の底上げと拡大
  論点3:利用者の拡大
  論点4:効果の底上げ

 見える化とは、生産現場の状況を把握して生産効率を高めるだけでなく、卸/小売り/消費者といったバリューチェーン全体を把握して経営に活かすことだ。農協などの中間事業者を通じて、小規模事業者にもICT活用を促しているのが特徴だ。加工/販売まで含めた農業の6次産業化は従来からの政策だが、これをバリューチェーンとして捉えてICTで効率化する際に、ブランド産品の輸出を考慮したトレーサビリティを確保できるように考えられている。

 ITリテラシーの問題にも大きく踏み込み、農業大学校等のこれまでの取り組みを加速化させる一方、IT業界側の教育面での進出を促しているのが特徴だ。また、実証事業を拡大し、効果拡大を実証して普及につなげる構想で、その際トレーサビリティによる消費者の安心・安全の確保を強調しているのは、「日本品質」をブランド化する狙いがある。

図2●ICTによる農林水産業振興に関する基本的な考え方
図2●ICTによる農林水産業振興に関する基本的な考え方
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