自由民主党の「新たなICT戦略に関する提言 デジタル・ニッポン2013 -ICTで、日本を取り戻す。-」(以下、「自民提言」)では、昨年来から話題となっている「国土強靭化」について、ICTの側面から提言されている。具体的には、復興、重要インフラ、道路の「スマートインフラメンテナンス」が論点で、昨年12月中央自動車道笹子トンネルでの崩落事故の後だけに、全体を通してセンサー網によるデータ収集(ビッグデータ)など、ICTによるインフラの保守などが強調されている。

 これまでのような業務システムとは一味違うICT利活用であるが、対象のビジネスの規模も巨大になるだろう。

コンクリートにICTを

 自民提言の「第一部 ICTによる国土強靭化と経済成長」(以下、国土強靭化提言)では、サブタイトルを「コンクリートにICTを」としている。これは「コンクリートから人へ」とうたった民主党政権への痛烈な皮肉である。「コンクリートから」ではなくて「コンクリートに」となっている所が自民党らしい。しかし、「ICTによる国土強靭化と経済成長の基本的な考え方」をみると、単なる皮肉だけではないことがわかる。

 今後20年以内に、国内主要インフラの過半数が築後50年以上となる。首都圏直下型や南海トラフなどの地震の発生リスクに話題が集まっている昨今、これは重大な事態といえる。しかし修繕には膨大な予算が必要で、膨大な国債を抱えて財政が逼迫している状財政況では、とても無理な話だ。

 自民党は、道路インフラのメンテナンスにICTを徹底的に活用すれば、このままでは倍増するであろう老朽化対策費を、2割増し程度まで抑えられると試算している。同様な課題を抱える他の先進国では、老朽化対策などのために公共投資が増えているのに対して、日本では公共工事への批判から減少傾向にある。このままでは予想される大震災の際に、大変な被害が出ると予想されるので、国土強靭化は必要と主張している。

 確かに、中央自動車道笹子トンネルでは、天井に刺さっているボルトを数年に一度目視で点検していたが、それよりはセンサーで随時点検する方が安心だし効率的だ。このような仕組みを活かして効率的に補修工事ができれば、コスト削減も見込めるだろう。

図1●インフラ老朽化とICTの効果
図1●インフラ老朽化とICTの効果
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図2●政府財政収支と公共投資(政府総固定資本形成)の動向
図2●政府財政収支と公共投資(政府総固定資本形成)の動向
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3つの方向性と3つの論点

 国土強靭化提言では、復興、重要インフラ全般、道路インフラの3つの論点を、分散、自律、協調、という3つの方向性で語っている。これらの方向性は、老朽化や災害対策の課題をオペレーション、ソフト、ハードの側面から分析した結果から得られたもので、第一部の論点1(いわゆる一丁目一番地)に復興とあるのは、「復興が第一」という安倍政権の姿勢を反映している。

図3●国土強靭化提言の方向性と論点
図3●国土強靭化提言の方向性と論点
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