「うちはマーケティングができていないから、プラットフォーム事業の競争力が弱い」。昨年末に日本の大手IT企業の経営トップにインタビューした際、この経営トップは自らの弱点をそう評した。ここで言うマーケティングとは、特に商品企画力のことだ。多くのユーザー企業に共通の普遍的ニーズを発見して、日本だけでなく世界で通用する製品・サービスを生み出す。そうした取り組みが、米国などのIT企業と比べて著しく見劣りするというわけだ。

 もちろん、そうした弱点はプラットフォームだけに限った話でもないし、このIT企業に限った話でもない。アプリケーションパッケージ、スマートフォン/タブレット、クラウドなどITのほぼ全ての領域で言えることであり、日本のIT企業に共通する弱点でもある。最新トレンド、画期的な製品・サービス、デファクトスタンダードは全て海の向こうからやって来る。その多くは米国から、一部は欧州から、スマホ/タブレットだと韓国からもやって来る。

 日本のIT企業、特に企業情報システム、いわゆるエンタープライズITを担っている企業は、市場創造という本来の意味でのマーケティングが本当に苦手だ。例えば富士通、日立製作所、NECといったコンピュータメーカーは、メインフレーム全盛時代には巨人IBMに対抗する力を持ち、その後も優れた研究者や技術者を多数抱え続けてきたにもかかわらず、世界をリードする製品・サービスを生み出せなかった。

 日本企業は全てマーケティングが苦手なのかと言えば、そうではない。過去の栄光になってしまったとはいえ、ソニーの「ウォークマン」は世界を席巻した。結局はガラパゴス化してしまったが、NTTドコモの「iモード」も世界に雄飛できるチャンスはあった。それに対してエンタープライズITの領域では、ガラパゴス化すらしておらず“外来種”だけが繁栄している。

 なぜ、そうなってしまったのか。単純に、日本のIT企業の問題として言えば、「言っていただければ何でもやります」といった受け身体質に起因する。個別要求に個別対応する世界に、画期的で普遍的な製品・サービスは生まれない。ただ、これはIT企業の問題というだけでなく、ユーザー企業側の問題でもあるのではないのか。ユーザー企業が日本のIT企業に「御用聞きであれ」と要求し続けてきたわけだから。

 実際、強い製品・サービスを持つ外資系IT企業に、「日本のユーザー企業に対して、これだけは勘弁してほしいことは何か」と聞くと、各社一様に「必要以上にカスタマイズを求める」「SLA(サービスレベル契約)以上のことを要求する」「革新的な技術をなかなか採用しない」といった答えが返ってくる。外資系IT企業が日本で売らない製品がたくさんあることを、以前このコラムで書いたが(「日本企業にソフトは売らない」)、その背景にはこうした事情がある。

 当然、日本のIT企業の顧客のほとんどは日本企業だから、日本と世界で売れる製品・サービスを生み出すのは極めて難しい。個別要求ばかりで、最新の技術を盛り込んだ製品・サービスをなかなか買ってくれないから、言われるがままにシステムを作る受託開発型のビジネスに依存し続けざるを得なかったわけだ。

 もちろん、製品・サービスを買うか買わないかはユーザー企業の自由だ。しかし、世界に通用する製品・サービスを、ユーザー企業が育てられなかったのは事実だ。そのツケは意外に大きいかもしれない。