世間一般の人が思い描くITエンジニアの人物像は、「おとなしい」「論理的だが社交性に欠ける」「パソコンなどの機器が好き」「ファッションに無頓着」―といった感じだろうか。もちろん当てはまらない人はたくさんいるが、該当する人は多いという印象だ。

 例えば営業担当者とITエンジニアが一緒に訪問してきた場合、名刺交換をせずとも外見だけでどちらがITエンジニアなのか、筆者はたいてい見抜くことができる。営業担当者はまず身なりがきちんとしている。髪を整え、スーツは体にフィットし、靴も手入れしている。表情も自信にみなぎり、態度も堂々としている。声も大きい。

 それに比べるとITエンジニアは、髪はやや伸び気味、スーツはワンサイズ大きい感じで少々よれており、靴も汚れや傷がちらほら目立ちあまりきれいとはいえなかったりする。表情は知的な印象だが、態度はやや控えめで後ろのほうにいる、といった感じだろうか。

 営業担当者がこのITエンジニアの身なりでユーザー企業を訪問したらどうなるか。商談はまずうまくいかない。仮に優れた営業トーク術を持っていたとしても、第一印象で「冴えない営業担当者」と思われてしまう。そうなると挽ばん回するのはなかなか難しい。

 ところが、ITエンジニアは上記のような印象であっても「ダメ出し」されることはあまりない。ITエンジニアに対する世間一般の認識が冒頭のようなものなので、多少冴えない格好でも許容してもらえることが多い。ITエンジニア自身も「自分は技術者だから営業担当者のように気働きしなくてもいい」と思っている人もいるだろう。

 しかし、ITエンジニアと仕事をともにするユーザーが満足しているかといえば、そうではない。実際、ユーザーにどんなITエンジニアと一緒に仕事をしたいかと聞けば、スキルや知識の豊富さはもちろんだが、「エネルギッシュで前向きな人がいい」「こちらが知らないことをさりげなく教えてくれる人がいい」といった答えが返ってくる。ITエンジニアの身なりについて聞くと、「もう少し身だしなみに気を使えばよくなるのに」といった要望はたくさん出てくる。スキルや知識が同程度なら、元気があって人当たりがよく、こざっぱりしている人と一緒に仕事をしたいと思うに決まっている。

 長引く不況の影響からか、ITエンジニアの印象はひと頃と比べると大きく変わってしまった。仕事は長時間労働や狭い空間での作業といった印象を持たれ「3K業種」と呼ばれるようになって久しい。以前は知的で創造性豊かなやりがいのある仕事として評価され、人気業種だったのだ。その頃は営業担当者よりもITエンジニアのほうがモテたし、仕事にも遊びにもパワフルなITエンジニアが多かったように思う。

 ITエンジニアに対する印象を自分たちで作ってしまっている面があると思う。スキルや知識だけあればいいと思っているとしたら、それはどう考えても間違っている。アベノミクスへの期待感からか世の中の雰囲気が明るく前向きになってきている。この機を利用し、ITエンジニア自身でマインドを変えてはどうだろう。まずは身だしなみをチェックし、そして常に「一歩前に出る」意識を持つことだと思う。

永井 昭弘(ながい あきひろ)
イントリーグ代表取締役社長兼CEO、NPO法人全国異業種グループネットワークフォーラム(INF)副理事長。日本IBMの金融担当SEを経て、ベンチャー系ITコンサルのイントリーグに参画、96年社長に就任。多数のIT案件のコーディネーションおよびコンサルティング、RFP作成支援などを手掛ける。著書に「RFP&提案書完全マニュアル」「事例で学ぶRFP作成術 実践マニュアル」(共に日経BP社)など