ITシステムが社会生活にとって欠かせないものであることに異論を唱える人はいないだろう。システムトラブルによる影響は、日々、増大し続けている。そのトラブルを引き起こす原因の中でも特に頭の痛いのが人間による作業ミスだ。本連載では作業ミスを無くすためのポイントと勘所を解説していく。


 顧客の監視センターでシステムの通信断を知らせるアラームが鳴った!

 通信断の原因は作業者のミス。指示者と作業者の2人で、既に稼働しているユーザーネットワークに対して機器の増設作業を行っていた。増設作業の中には、増設ケーブルを抜き差しして機能確認を行う手順があり、ケーブルを抜くとき、誤って同じ機器に接続されていた稼働中のケーブルも一緒に抜いてしまったのだ。

 手順書を準備し、2人作業でありながら、なぜこのようなことが起こったのだろうか。調査してみると、以下のようなことが判明した。

 (1)作業前に稼働中のケーブルが接続されているなど、危険なポイントを把握できていなかった、(2)過去に同じ増設作業を実施していたため、作業者がケーブルを抜くとき「前回と同じ作業だから」という思いで指示者の言うままに作業をしていた、(3)ケーブルを抜くとき、指示者が作業者に対して「いま挿したケーブルを全部抜いて」という曖昧な指示をし、作業者も「全部ですね」と指示者の言葉をそのまま受け取り、機器に接続されていた全てのケーブルを抜いてしまった。

 こうした作業ミスによるトラブルを、CTCテクノロジー(CTCT)ではヒューマンエラーと呼んでいる。CTCTは様々な工夫を凝らしてこのヒューマンエラーを撲滅するための活動を実施し、その結果、大きな効果を上げてきた。活動の名称は「ヒューマン・エラー・ゼロ」。それぞれの頭文字を取り「HEZ(ヘズ)」と呼んでいる。冒頭のトラブルはCTCTがHEZ活動を実施する前の出来事だった。

 では実際に、作業ミスを無くすには何をしていけばいいのか。そのポイントと勘所を全6回の連載で紹介していきたい。第1回の今回は、この活動の重要性と概要について述べる。

危険を予知して対策を打つ

 ヒューマンエラー撲滅に欠かせない「KY」という取り組みをご存知だろうか。「ヒヤリハット」は知っていても、「KY」の認知度はまだ低いかもしれない。「KY」とは「K=危険、Y=予知」の略語で、危険を予知してそれを避けることをいう。

 旅客、製造、建設、医療など、人命に直接関わる危険を伴う業界では早くから認識されてきたが、IT業界ではまだまだ馴染みの薄い言葉である。「人間は誰でもエラーを起こす。しかしあきらめずに何とかエラーをしないように、エラーをしても事故にはならないように、危険を予知して対策を打つ」というのがKY活動である。

 CTCTは、事業主の自主的な労働災害防止活動の促進を通じて安全衛生の向上を図り、労働災害の絶滅を目指すことを目的として1964年に設立された中央労働災害防止協会の協力の下、2002年からこのKY活動を取り入れ、HEZ活動として継続的に実践してきた。