少子化高齢化、医師不足、止まらない過疎化――。近い将来、日本各地が遭遇するであろう課題に、まさに今、直面している島がある。新潟県沖にある佐渡島だ。

 東京23区の約1.4倍(855平方キロメートル)の広さを持つ島に住んでいるのは、わずか6万人余り。その36.8%は65歳以上のお年寄りである。高血圧症などの慢性疾患患者は少なくなく、脳梗塞などを発症する高齢者もいる。ところが、人口10万人に換算した医師数は134.6人(2009年厚生労働省調べ)と、全国平均の224.5人を大きく下回る。

 「このままでは、住民が安心して生活できる環境を維持できない」。佐渡総合病院の外科部長で、佐渡地域医療連携推進協議会の理事も務める佐藤賢治氏は、佐渡島の将来に危機感を募らせる。

最小限の労力で効果を出す

 この状況を脱するために、佐渡島ではITを活用した医療業務改革プロジェクトが進行中だ。島内の病院や診療所、調剤薬局などで管理している患者の情報を共有し、医療の効率化と品質維持を実現する。「一人の医師で10人しか診られない場合でも、二人が協力すれば20人以上を助けられる」と、佐藤外科部長は狙いを語る。

 2013年4月には、情報インフラとなる地域医療連携システム「さどひまわりネット」を稼働させた(図1)。運営主体は特定非営利活動法人の佐渡地域医療連携推進協議会。要件定義支援はバーチャレクス・コンサルティング、設計・構築は日本ユニシスが担当した。

図1●「さどひまわりネット」の全体像<br>佐渡島内の病院や調剤薬局で患者の情報を共有し、医療の効率化と品質維持を目指す
図1●「さどひまわりネット」の全体像
佐渡島内の病院や調剤薬局で患者の情報を共有し、医療の効率化と品質維持を目指す
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 地域における医療連携システムの構築プロジェクトは、佐渡島のほか日本各地で行われており、診療情報などを共有するというコンセプトは、どこも似ている。ただし、システムの企画・設計における“メリハリ”という点では、さどひまわりネットの構築プロジェクトから学ぶ点は多い(図2)。

図2●「さどひまわりネット」におけるシステム構築の勘所<br>「最小の労力で最大の効果を引き出す」ことを意識して、システム全体を設計・構築した
図2●「さどひまわりネット」におけるシステム構築の勘所
「最小の労力で最大の効果を引き出す」ことを意識して、システム全体を設計・構築した
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 具体的には、(1)医療機関の既存システムに手を加えないで、複数機関のデータを一元管理できる仕組みにする、(2)医師や看護師の業務を増やさず業務フローも一切変えない、(3)誰もが即座に使いこなせるようにマニュアル不要の操作性を実現する、である。プロジェクトの先導役を担った佐藤外科部長は、「最小の労力で最大の効果を引き出すことを、常に意識してきた」と強調する。