前回に続いて、IT職場を元気にする決め技を紹介していこう。

決め技3:「12年間で異動3回」が義務

 JTBグループで情報システムの開発・運用・保守を手がけるのが、JTB情報システム(JSS)(東京・渋谷)だ。

 同社は社内を活性化させるため、2013年4月から新しい人事制度を導入した。社員が入社してから役職登用の時期を迎える約12年の間に、最低3つの部署で働かせるルールを決めた。

 「10~15年、同じ部署という人材もいる。仕事の属人化が進むだけでなく、塩漬け社員が多くなってしまうと、職場に閉塞感が生まれ、活気がなくなってしまう。こうした事態を避けるため、複数回の異動義務付けルールを導入することにした」。JSSの野々垣典男常務取締役は新制度の狙いをこう説明する。

 例えば、JSSで開発部門を経験した後は、JTBグループ本社のシステム部門に異動。その後は、広報部や営業所などといった具合に、様々なルートを歩ませる計画だ。JSSの社員は複数回の異動を通じて、ITスキルに加え、業務知識、利用部門の考え方、そして何より幅広い視点を身につけてもらおう、という試みだ。

 「数回の異動を通じて、利用部門と一緒に働くのは、人間の幅を広げる良い機会。そうした人材が増えれば、結果としてJTBグループの経営に貢献する情報化を円滑に進めやすくなる。長期的な取り組みだが、今からアクションを起こさないと手遅れになる」と野々垣常務は指摘する。

 かつて旅行業と言えば「店舗で予約」が常識だったが、今やネットが主役になっている。IT部門の社員も顧客のニーズや新商品開発を肌で感じなければ、優れた旅行サイトを作りにくい時代。JSSの異動義務付けはそんな背景がある。

 旅行に限らず今やどんな産業もネット化の波は避けられない。そんな中で企業の人事担当者はシステム部門の社員の異動回数をきちんと把握しているだろうか。閉塞感を打ち破るには異動義務くらい大胆な発想があっていい。