今、最もホットな社会プロジェクトと言えば、おそらく「スマートシティ」だろう。日本、中国、欧州、中東などで実証実験のプロジェクトが次々と立ち上がり、ITなどを駆使した省エネ・環境配慮型の街づくりを目指している。だけど、スマートシティでは誰がいったいどのようにして儲けるのだろうか。

 私は1年以上前からスマートシティの話を聞くたびに、いつも「どうやって儲けるのですか」と聞いている。そうすると必ず怪訝な顔をされる。原発が止まり恒常的な電力危機に陥っている日本にとっては、スマートシティは極めて公益性の高い事業。だから、「金儲けの話を持ち出すな」といった目でにらまれたりもした。

 でも、これはおかしい。公益性の高い事業だからこそ、参画する企業の金儲けの方法、つまりビジネスモデルを真っ先に検討する必要があるはずだ。金儲けの方法が無ければ、その公益性ゆえに、スマートシティのインフラの運用・維持に国のお金、つまり税金を投じ続けなければならなくなるからだ。

 そもそも、スマートシティはIT企業にとっては新規事業である。街や家、オフィスに設置されたセンサーから大量のデータ、つまりビッグデータを吸い上げてクラウド上で分析する。まさに自らが喧伝しているビジネスを自らの手で実現できるわけだ。さらに、ハウスメーカーや不動産会社、自動車メーカーなどにとっても、ITを活用した新規事業であるはずだ。

 だが、スマートシティを構築・運営を担うこれらの企業は、継続的にお金を稼ぐビジネスモデルを全く描けていない。それどころか、単なるコスト増を怖れる。実際、あるハウスメーカーのCIOは、住宅に取り付けるHEMS(家庭用エネルギー管理システム)の将来を心配していた。今は補助金が付くから新築住宅にHEMSをどんどん取り付けるが、故障した時にはハウスメーカーの負担で修理するしかない、というわけだ。

 もちろん、スマートシティに参画する企業は、これからビジネスモデルを考えていく腹積もりなのかもしれない。でも、その難易度は極めて高い。新規事業の成功の秘訣は小さく始めて、大きく育てることだ。だが、スマートシティのプロジェクトは最初から巨大だ。しかも、1社単独ではなく、多数の企業が儲けることのできる巨大なエコシステムを作らなければならない。そんなスティーブ・ジョブズ級の天才はどこにいるのだろうか。

 そう言えば、ある大手コンピュータメーカーの経営トップを会ったときにも、スマートシティでの儲け方を聞いてみた。そのトップはしばらく考えた後、「無いね」とだけ答えた。まさか、システムを作ってさようなら、というわけではないと思うが。