携帯電話事業者から設備を借りて独自のサービスを展開するMVNO(仮想移動体通信事業者)に関して、今週、また新たな動きがあった。

 MVNO最大手の日本通信は2013年5月14日、NTTドコモの携帯電話網のパケット接続料に関し、総務大臣の裁定を求める申請を総務省に提出(当該記事)。翌5月15日には、日本通信が問題としたパケット接続料をNTTドコモが公表した(当該記事)。

 日本通信とドコモは、このパケット接続料を巡って継続的に争っている。昨年4月には、日本通信はNTTドコモを相手取り、パケット接続料の算定式が両社で合意した内容と異なるとして、従来通りの履行を求める訴えを東京地裁に起こした(現在も係争中、関連記事:日本通信が接続料算定式巡りドコモを提訴)。

 その裁判の行方も見通せないまま、再び、両社で合意した方式とは異なる算定方式でNTTドコモが2012年度の接続料を総務大臣に届け出たため、今度は日本通信が総務大臣の裁定を求める申請を出したというわけだ。

争いの根本的な原因は曖昧な「総帯域幅」の定義

 両社が争う算定方式の違いとは、ドコモの設備の「総帯域幅」の解釈。パケット接続料は、設備費用(原価+適正利潤)をトラフィック(通信量)で除算することで算出しており、「帯域幅課金」の場合は「総帯域幅」に占める10Mビット/秒当たりの単価を貸し出し料金とする。ただ、この「総帯域幅」の解釈については、総務省が定めたガイドラインにも明記されていない。

 日本通信が主張する「総帯域幅」は「基地局側帯域」と呼ばれるもの。一方のドコモは「ISP側帯域」を主張する。両者の違いは図1の通り。基地局側帯域とは各通信設備の伝送容量の総量を指し、ISP側帯域とはそのうちインターネットに抜けるパケット接続装置の伝送容量を指す。災害時などに多くの携帯電話ユーザーが一斉にインターネット接続を始めるとつながりにくくなるように、インターネットに抜けるパケット接続装置の伝送容量は、各通信設備の伝送容量の総量よりも小さく設計されている。

 前述したように、MVNOに対するドコモの貸し出し料金は「総帯域幅」に占める10Mビット/秒分が単価となる。当然のことながら、分母となる「総帯域幅」が大きくなれば割安に、小さくなれば割高になるため、両社の見解が一致することはほぼあり得ない。要は「総帯域幅」の定義が曖昧なままであることが争いの根本原因なのだ。

図1●「基地局側帯域」と「ISP側帯域」の違い(総務省の「モバイル接続料算定に係る研究会」の資料から抜粋)
図1●「基地局側帯域」と「ISP側帯域」の違い
総務省の「モバイル接続料算定に係る研究会」の資料から抜粋
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