「請負」は民法に規定されている13種類ある契約類型の一つである。仕事の請負人が依頼された仕事を完成することを約束し、注文者がその仕事の結果に対して報酬を支払う契約だ(民法第632条)。請負契約と準委任契約との大きな違いの一つが、「仕事を完成する」義務を負うかどうかだ。

 ビルなどの建設工事や荷物の運送が、請負の代表例だ。身近なところでは、洋服のクリーニングやオーダーメードも請負である。建設工事であれば「建物を完成させる」、洋服のクリーニングであれば「洋服をきれいにする」というように、請負人は引き受けた仕事を完成する義務を負う。

 一方、前回解説した通り、準委任契約の場合は、仕事を引き受けた人や会社はそれを完成させる義務を負わない。例えば、医師は患者の病気を完治させる義務を負わないし、塾の講師は生徒を合格させる義務を負わない。

請負人は瑕疵担保責任を負う

 請負人であるITベンダーが「瑕疵担保責任」を負うことも、準委任契約との違いだ。仕事の目的物に問題(民法では「瑕疵」という)があった場合、注文者は請負人に対して無償で瑕疵の修正(民法では「修補」という)を請求したり、修補を要求する代わりに損害賠償を請求したりできる。

 これらの請求ができるのは、原則は目的物の引き渡しから1年以内である(民法634条、637条)。また、瑕疵担保責任は民法上は「無過失責任」とされている。瑕疵が生じたことについて請負人に非がなくても、瑕疵を修正したり損害賠償を支払ったりする責任を負う。

 ここで注意したい点は、これら民法の規定は契約で変更することが認められていることだ。例えば、瑕疵担保責任の期間は民法上は1年以内とされているが、「納品から6カ月以内」と契約で定めていれば、それが瑕疵担保の期間となる。ITベンダーが作成した契約書を見ると、「検収から6カ月」といったように、民法が定めている期間より短くなっているケースが多いので注意が必要だ。

 例えば、瑕疵担保の期間が「検収から6カ月」という請負契約で、システムの外部設計を発注したとしよう。そして、この外部設計書に問題があることが、システムの稼働直後に判明したとする。このとき、外部設計後のアプリケーション開発やテストなどで6カ月以上を費やしていたら、ユーザー企業は瑕疵の修補や損害賠償を請求できないことになる。「検収から6カ月」という瑕疵担保の期間を過ぎているからだ。

 システムが稼働しないと成果物の瑕疵が顕在化しないケースは多い。そのため、瑕疵担保の期間を長くするだけでなく、その起点を目的物の引き渡し時点ではなく、「システムの稼働開始から○カ月以内」のように規定しておくほうが賢明といえる。

 民法上は瑕疵担保の期間を1年以上に延ばすことも可能だ。だが、期間を長くすればITベンダーが負うリスクも大きくなるため、開発費用や保守費用が高くなることも考えられる。経営に与えるインパクトや、採用している技術の安定性などを考慮しながら、適切な期間を定める必要がある。

 瑕疵担保責任が民法上の無過失責任ではなく、「過失責任」に書き替えられている場合も多いので注意が必要だ。過失責任となっている場合、システム障害が発生したときに、ITベンダーが「自分の非によるものでない」と主張して、修補の対応を迅速に実施できないことになる可能性もある。

 経済産業省の「情報システム・モデル取引・契約書」(モデル契約書)では、第29条に「前条の検査完了後、納入物についてシステム仕様書との不一致が発見された場合、甲は乙に対して当該瑕疵の修正を請求することができ、乙は、当該瑕疵を修正するものとする」としており、無過失責任となっている。このような表現ではなく、「乙の責めに帰すべきシステム仕様書との不一致」のように、過失責任とされている場合は、無過失責任にするようITベンダーに要求すべきだ。