前回まではマーケティング・オートメーションのコンセプトや提供機能、成功事例を説明してきた。今回は、日本企業がマーケティング・オートメーションを進めていくにあたって、課題となる部分を明らかにしていきたい。

 マーケティング・オートメーションの導入に際して課題となりがちなポイントとしては、

  1. マーケティングデータ(潜在顧客のデータ)が分散管理されており、統合そのものが困難
  2. ローカライズされているツールが少ない上にコンサルティングサービスが提供されにくい
  3. 自社でシナリオ設計や効果測定をする人材が不足している
という3点が挙げられる。

社内に分散している潜在顧客情報

 1つ目の課題は、マーケティング対象となる潜在顧客情報が統合管理されておらず社内に分散していることだ。

 取引のある既存顧客のデータであれば、社内で一元管理されていることも多いが、潜在顧客の情報は様々な部門や担当者がそれぞれ管理していることが多い。例えば、自社のウェブサイトのメールマガジンの読者リスト、キャンペーンの応募者データ、セミナーなどの参加者のリスト、名刺交換などによって獲得したデータなどが挙げられる。

 一部の潜在顧客データだけを使ってスモールスタートをすることは可能だが、成果が見え始めると、より大きな取り組みにするために統合管理する必要が生じる。一般に、潜在顧客へのマーケティング活動は各部門で異なり、全社的なガイドラインが存在しているわけではないので、取得するデータや管理手法は統一されていない。統合に際しては現状の業務や役割分担を変える必要があるため、大がかりなプロジェクトになることを覚悟しなくてはいけない。

 2つ目の課題は、ツールやツールベンダーの日本市場対応だ。

 マーケティング・オートメーションのツールは、米国では100以上のツールが存在すると言われる。しかし日本においてはまだ選択肢が少ない。米国から進出しているベンダーも何社か存在するが、日本語へのローカライゼーションに力を入れているベンダーは少なく、英語のまま利用する必要があるものがほとんどだ。

 また、日本支社には販売部門のみが存在し、導入支援やサポートは本国との英語のやりとりが発生する場合もある。担当者が英語ができる人材であったとしても、会社として導入するにはリスクが高いと判断されてしまう場合も多いだろう。

プロセスを一貫して担える人材が不足

 3つ目の課題は、マーケティング・オートメーション導入の企画立案と、効果測定に特化した役割を担う人材面だ。

 ウェブ・マーケティングの場合、社内で全ての施策を実行している企業は少ない。広告代理店やPR会社、ウェブ制作会社などに実装を任せ、社員は各ベンダーへの指示や管理を主務としているというケースがほとんどではないか。企画立案から効果の分析までを、一貫して担当した経験がある社員は少ないはずだ。

 マーケティング・オートメーションでは、ユーザーの行動別にメールの配信や特定サイトへの誘引を行うシナリオを作ってしまえば、その後は自動的に各アクションが実施される。マーケティング担当者の役割は、企画を自ら立案し、その効果を分析し、次の企画に反映させることが中心となる。マーケティングのノウハウはもちろんのこと、自らツールを扱えるITリテラシーから、効果測定を行う分析能力まで、幅広いスキルが求められる。しかしそういった人材を社内で調達することは非常に難しいのが現実だ。

 米国ではツールベンダーがこうした業務を提供していることも多いが、上述したように日本市場ではサポート体制が不足しているため、人材・スキル面での課題が浮き彫りになりそうだ。

田島 学(たじま まなぶ)
アンダーワークス代表取締役社長
田島 学(たじま まなぶ)
早稲田大学政治経済学部卒。アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)などを経て2006年4月にデジタルマーケティングのコンサルティング会社アンダーワークスを設立。