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 ビッグ・データの利活用に関心が高まるなか、その中核となるデータサイエンティストの人材不足が話題になっている。ガートナーのCIO調査でも、「スキル不足がビジネスに悪影響を及ぼす」と見られるテーマの2位に「ビジネス・インテリジェンスとアナリティクス」が挙げられた(右図参照)。

 データ分析のインフラを作っても、それを使いこなすスキルを持つ人材がいなければ活用できない。しかし新しい技術である以上、十分なスキルを備えた人材が社内にいるはずがない。

 これまでもIT部門はそうした課題に直面し対応してきた。例えばBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)の必要性が高まった時も、当初IT部門には専門家といえるレベルのBPRスキルを持っていた人材は非常に限られていた。それでもITで業務プロセスを改革し、それをIT部門のコアファンクションにしようという強い意志を持った企業では、プロセスそのものを専門にデザインする職種を作り、人材を育成してきた。

 プロジェクトマネジメントにも同じことが言える。プロジェクト運営が複雑化する中で求めるスキルと、現実に大きなギャップが生じたが、プロジェクトマネジメントを専門的スキルと捉え人材を育成することによって、スキルギャップを埋めてきた。

人材育成は時間との戦い

 ただしBPRやプロジェクトマネジメントでは、スキルギャップを埋めるうえで外部の人材を活用するという選択肢があった。社内で育成する代わりに社外のコンサルティング会社やITベンダーから調達することができたのである。カネで時間を買い、スキルギャップを短時間で埋めたわけだが、結果としてコアファンクションの外部依存を高め、社内のIT部門での人材育成が手薄になった企業も少なくない。

 データサイエンティストはどうか。

 ガートナーは2012年秋に「2015年までに、ビッグ・データ需要により創出される雇用機会は世界で440万人に達するが、実際に採用につながるのは3分の1のみにとどまる」という展望を発表した。大量の人材ニーズを、コンサルティング会社やITベンダーなどだけで供給するのは難しい。外部からのスキル調達が日本以上に進んでいる欧米でも、データサイエンティストの人材市場は機能していないと言われる。

 外から補えないなら社内で育成するしかない。言い換えれば、人材不足は社内でしっかり人材育成に取り組む好機なのだ。IT部門の新たなコアファンクションにデータ分析が加われば、様々なビジネスに貢献でき、組織での存在感が増す。

 ただしそれは時間との戦いでもある。悠長に人材育成に取り組んでいると、ビジネスで他社の後塵を拝することになりかねない。ITベンダーやコンサルティング会社が先に大量のデータサイエンティストを育成すれば、供給が潤沢になり、結局またカネで調達するということになってしまうだろう。

 ここで取り上げたデータサイエンティストは一例にすぎない。要は、IT部門のコアファンクションだと決めたものは自分たちで担っていくということだ。そのために、必要な人材を内部で育成するのは本来健全なことであるはずだ。アウトソーシングという名のもとに、安易にIT部門のコアファンクションを外部に依存することは避けたい。IT部門の存在意義を自ら否定するようなものだ。

長谷島 眞時(はせじま・しんじ)
ガートナー ジャパン エグゼクティブ プログラム グループ バイス プレジデント エグゼクティブ パートナー
元ソニーCIO
長谷島 眞時(はせじま・しんじ)1976年 ソニー入社。ブロードバンド ネットワークセンター e-システムソリューション部門の部門長を経て、2004年にCIO (最高情報責任者) 兼ソニーグローバルソリューションズ代表取締役社長 CEOに就任。ビジネス・トランスフォーメーション/ISセンター長を経て、2008年6月ソニー業務執行役員シニアバイスプレジデントに就任した後、2012年2月に退任。2012年3月より現職。2012年9月号から12月号まで日経情報ストラテジーで「誰も言わないCIOの本音」を連載。