欧米で急成長しているクラウドがある。クラウドといっても雲(cloud)の方ではなく群衆(crowd)の方で、「クラウドソーシング」(Crowd Sourcing)のことだ。

 クラウドソーシングとは、企業がインターネットを介して不特定多数の人々にさまざまな仕事を依頼し、多様なノウハウやコンテンツを活用する開発形態のことをいう。自社だけではできない革新的な成果を出したり、定型業務を安価に処理したりといった目的で主に使われる。

 先行している欧米では、既に目的別にさまざまなクラウドソーシングのサイトが立ち上がっている。委託作業や受託作業を集めたサイトのほか、マッチングサイトもある。そのほか、新しいアイデアに対して投資家から資金を募ったり(クラウドファンディングという)、世界中の優秀なクリエイターに仕事を依頼したりできる。世界中の研究開発成果を集めて共有する仕組みなども着々と整いつつある。例えば米P&Gでは「コネクト+デベロップ」という仕組みでクラウドソーシングの概念を取り入れ、多様な企業との提携を実現し商品開発に役立てている。

 日本は欧米に大きく遅れているものの、システム開発分野でもクラウドソーシングが利用され始めている。ただ、受託作業の内容を見ると簡単な定型業務を安く請け負うようなサービスが大半で、アルバイトやパートタイマーに近いイメージである。発注側がしっかりと仕事内容を定義し、エンジニアのスキルを見定めて、品質やプロジェクト管理を行うことが欠かせない。

 日本のクラウドソーシングは、コスト削減を目的に利用するケースが多いようだ。だが筆者は、システム開発では付加価値を高める方向で進展してほしいと願っている。日本のシステム開発は、システムインテグレータが中心になっていることが多い。システムインテグレータは社内及び関連会社の人材活用を優先するあまり、外部の知見を取り入れづらい風土になっていた。そうした状況を、クラウドソーシングで変えてはどうかということだ。

 本来システム開発は極めてクリエイティブな仕事である。新しい技術や製品を組み合わせてユーザーにより大きな価値を提供する。これがシステム開発の醍醐味だ。クラウドソーシングを活用することで、個性的なエンジニアのチームが会社の枠を超えて協調し、面白い仕事を成し遂げる。日本だけでなくグローバルなチームを巻き込んで革新的な取り組みに挑戦し、その成果を世界に公開する。そんなシステム開発が日本で進んでほしい。

 オープンソースなどのコミュニティーは、そうしたクラウドソーシングの場になり得るのではないだろうか。コミュニティーには優秀なエンジニアが集まっており、さまざまな知見を吸収して共有できる場になっている。技術革新が速い世の中では、新しい技術を熟知するエンジニアはいつも貴重である。クラウドソーシングが世界的に進めば、エンジニアの市場価値はグローバルな物差しで測られることになる。そうなると、コミュニティーで活躍している日本の優秀なエンジニアは、今の何倍もの高い評価を受けるはずだ。

 一人ひとりのエンジニアの個性を高い付加価値に変える、そんなクラウドソーシングの出現に期待したい。

漆原 茂(うるしばら しげる)
ウルシステムズ 創業者兼代表取締役社長。2011年10月よりULSグループ代表取締役社長を兼任。大規模分散トランザクション処理やリアルタイム技術を中心としたエンタープライズシステムに注力し、戦略的ITの実現に取り組んでいる。シリコンバレーとのコネクションも深く、革新的技術をこよなく敬愛している