写真1●首都ダッカの様子
写真1●首都ダッカの様子
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 バングラデシュはアジア最貧国の一つとされる(写真1)。だが経済は好調だ。2009年度は5.7%、2010年度は6.7%と安定的な経済成長率を維持しており、BRICsに次ぐ「ネクスト11」の一つにも数えられている。現政権は「ビジョン2021」政策を掲げ、独立50周年にあたる2021年までに中所得国となることを目指す。

 好調な経済を支えるのは、輸出の8割を占める衣料品。ただし、ビジョン2021の達成に向けた成長エンジンの主役はITだ。「デジタル・バングラデシュ」の号令の下、国内のICT基盤を整備すると共に、IT産業を縫製業に次ぐ輸出産業に育て上げ、IT立国を目指している。

政府施策を支えるPPPモデル

 デジタル・バングラデシュには、大きく三つの目標がある。「行政サービスの電子化」、「ICTインフラの整備」、「IT集積地の建設」である。これらの施策は政府が旗振り役として進めるものの、政府に十分な予算はない。そこでカギとなるのが、民間企業の参加を前提としたPPP(官民連携)モデルだ。

 PPPモデルの典型が、首都ダッカの北に位置するカリアクールのハイテクパーク建設である。232エーカーの広大な土地に、ハードウエア関連工場やエレクトロニクス、医療、IT分野のハイテク企業を誘致する。2015年までの完成をめざし、マレーシアの企業と国内3社がデベロッパーとして開発計画を立案中だ。米国、日本、韓国などの企業から100億円以上の投資を見込む。

 ところが同ハイテクパークの建設にあたって、政府は費用を負担しない。海外企業誘致のための土地の提供と、税制優遇施策の立案を担当する。一方、民間企業はデベロッパーとして、政府が提供する土地を競売で落札する。そのうえで工場やビルを建設し、海外企業にリースするわけだ。政府は1円の支出もすることなく、海外企業を呼び込み、経済成長の促進につなげられる。

 ICTインフラの整備についても同様だ。政府は4500あるユニオン(行政区域の単位で、平均約25キロ平方メートル)の全てに、インターネット環境を導入する計画を立てる。既存の役所や新設する出張所にパソコンなどを設置し、近隣の住民が利用できるようにする。ただし全てを政府施策として進めるのではなく、各地域の地主にビジネスとして同施策に参加してもらう構想もあるという。

 もちろん全ての施策で、政府支出がないわけではない。例えばクルナ管区ジョショールで進めるITパークの建設については、4億8000万円の政府予算がついている。チッタゴンにおける同様の案件でも1億円の支出を見込んでいる。とはいえ、政府が予算を確保するのは簡単ではない上、時間がかかる。デジタル・バングラデシュ構想を効率的かつ早急に実現するために、PPPモデルは欠かせない手段だ。