写真1●首都ダッカの様子
写真1●首都ダッカの様子
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 インドの隣国バングラデシュの首都ダッカ。道にはミシン1台を置いただけの机がずらりと並ぶ。衣服の修繕屋たちの仕事場だ。客から依頼を受けると、その場でミシンを踏み始める(写真1)。繊維大国であることを改めて思い知る光景だ。

 バングラデシュにはスウェーデンのH&M(ヘネス・アンド・マウリッツ)や、「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングといった世界のアパレルメーカーが生産拠点を構える。同国における輸出額の約8割は衣料品が占めている。

 そんなバングラデシュが「IT立国」への道を歩み始めていることは、日本ではあまり知られていない。輸出額に占めるIT関連製品の割合は現時点では1%に満たないが、実はバングラデシュにはオフショア委託先としての必要条件がそろっている。

 人口は1億6000万人と多く、隣国インド同様に数学的思考に長けた人材が豊富だ。それでいて、IT人材の人件費は新卒初任給で見ると250~300ドル程度とインドの半分に近い。

IT集積地の建設が相次ぐ

図1●デジタル・バングラデシュの3方針
図1●デジタル・バングラデシュの3方針
ITを縫製業に次ぐ輸出産業として位置付ける

 同国政府もその潜在力を開花させるべく全力を挙げる。現在はアジア最貧国の一つだが、独立50周年となる2021年までに中所得国になることを標榜するバングラデシュは「デジタル・バングラデシュ」のスローガンの下、IT産業を縫製業に次ぐ輸出産業に育てる方針を掲げる(図1)。

 その柱となるのが「IT集積地」の建設だ。海外からIT企業の投資を呼び込むことで経済成長を促進すると同時に、IT関連分野の雇用を創出して人材育成につなげる政策である。

 既に政府主導で三つのプロジェクトが動き出している。一つめがダッカ中心部の案件だ。「カウラン・バザール」地区に14階建てのビルを建設済みで、そこにソフト開発会社を誘致する。

 二つめはダッカの北40キロメートルに位置するカリアクールのハイテクパークだ。東京ドーム20個分の土地にハードウエア関連の工場のほか、電機・医療・IT分野のハイテク企業を集積させる。政府の入札に応じた国内3社とマレーシアの政府系企業がデベロッパーとして開発計画を立案中で、6カ月~1年後には着工し、2015年までの完成を目指している。

 三つめはダッカの南西、クルナ管区ジョショールのITパークである。既に4億8000万円の政府予算を確保しており、1~2年後には着工したい考えだ。情報通信省管轄のバングラデシュハイテクパーク局で責任者を務めるアジズル・ラーマン マネージングディレクターは「他に3~4カ所のITパークを建設する用意がある」と明かす(写真2)。

写真2●IT集積地の建設計画を進めるバングラデシュハイテクパーク局のアジズル・ラーマン マネージングディレクター(中央)とメンバーたち
写真2●IT集積地の建設計画を進めるバングラデシュハイテクパーク局のアジズル・ラーマン マネージングディレクター(中央)とメンバーたち
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 いずれのパークでも、入居企業に対して10年間の免税期間を設け、輸出入にかかる関税の優遇措置も予定する。これまで脆弱だった電気・ガスなどのライフラインや交通インフラも整備する。「日系企業にもぜひ進出してもらいたい」とラーマン マネージングディレクターは強調する。