最近、「ビッグデータの話とBI(ビジネスインテリジェンス)とは何が違うのですか」との質問をよく受ける。そんなときには、「同じです」と私は答える。もう少し厳密に言えば、「ビジネスにおけるビッグデータ活用とBIの取り組みは本質的に同じ」ということだ。

 このことから、ビッグデータ活用の将来を簡単に予言できる。つまり、日本企業の取り組みは99%失敗する。かつてBIの取り組みの多くが失敗した。そして今、なぜBIで失敗したかを総括することもなく、「これからはビッグデータ」だと浮かれている。と言うか、ビッグデータ活用がBIと本質的に同じであることにも気づいていない。これでは上手くいくはずがない。

 ビッグデータ活用とBIの違いでよく言われることは、扱うデータの量と質。BIの場合、従来の基幹系システムで管理しているデータの分析が中心だった。一方、ビッグデータ活用では顧客の行動履歴、そして“つぶやき”のような非構造化データなども分析対象とする。

 その通りなのだが、これはどちらかと言うと枝葉末節の話。分析の対象となるデータが、文字通りビッグになったにすぎない。何のために分析し、分析結果をどう活用するのかという視点がなければ、単なる粗大ゴミである。

 かつてのBIブームの際も、この視点が希薄だった。なにしろ「インテリジェンス」の意味すら知らないで、BIが語られることが多かった。インテリジェンスとは、「意思決定に必要な、核心的な情報」のことを指す。単なるインフォメーションとはわけが違うのだ。

 BIは「ビジネスにおけるインテリジェンス」だ。つまり、経営者や現場の責任者が意思決定の際に必要な、核心的な情報を提供する必要がある。だが、当時の多くのBI担当者には、そうした視点が無かったから、分析結果を出しても、誰の役にも立たない参考資料にすぎず、インテリジェンスにはなり得なかった。

 そもそも日本企業では、意思決定の多くは会議を通じて行われる。経営会議しかり、営業会議しかりである。そして今でも、その場で活用される最大の“インテリジェンス”は、Excelを使って作成された予実表だ。日本企業にとっての最高の“BIツール”はExcelであり、本来のBIツールは出る幕がなかった。

 結局のところ、多くのBIの試みは、会議などの意思決定プロセスにインテリジェンスを提供する仕組みになっていなかったから失敗した。だから今のビッグデータ活用の試みもかなり危うい。誰が何のために、どのようなインテリジェンスをいつ必要とするのかという議論を置き去りにして、「大量データをぶん回せば、未来予想ができそうだ」といった程度の認識で取り組めば、BIの轍を踏むだけである。

 ビッグデータ活用の数少ない成功事例の1社であるコマツの場合、自社製の建設機械30万台に取り付けたセンサーから、建機の稼働状況のデータがリアルタイムに送られてくる。それを分析し今後の建機市場の動向をインテリジェンスとしてつかむことで、在庫の調整などの経営判断に役立てている。

 これからビッグデータ活用に取り組む企業も、重要会議の際に「今こんな情報さえあれば」とため息をついたところに焦点を合わせるべきだ。それこそがインテリジェンスであり、ビッグデータ活用のポイントである。そういう取り組みが多くなれば、「99%失敗する」という私の予想は外れるだろう。