千葉県松戸市の協和デンタル・ラボラトリーは、歯科医院から送られてくる歯列のかたどり印象をもとに、入れ歯や人工歯などの製作・加工を行う、従業員約50名の「歯科技工所」である。歯科技工所は、業界の8割程度が1~2人の小規模事業所であり、この業界の仕事は長い間、経験と勘に裏打ちされた歯科技工士の手作業によって行われてきた。業界の7割くらいの事業所は健康保険が適用される範囲内の仕事をしている。仕事量は多いものの、“速く・安く”が要求され、単価は下降傾向にあった。

写真1●CADを活用して仕事を進めるチーム
写真1●CADを活用して仕事を進めるチーム
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 そのような業界の中で同社は、保険対象外の高度歯科治療である「インプラント(人工歯根)治療」に着目し、付加価値が高く技術が活かせるインプラント技工専門の事業へ1999年にシフトし、さらにその技工の中でも、高耐久性で仕上がりが美しい素材「ジルコニアセラミックス(人工ダイヤ)」に対応するために、2005年にCAD/CAMを導入し、ジルコニア(人工ダイヤ)分野においてパイオニアとして認知された。そして、CAD/CAMを導入した2005年から6年間経過して年商が1.9倍になっている(写真1)。

 この売り上げ拡大は一気に進んだわけではなかった。CAD/CAMを導入した2年後に年商が1.5倍まで伸びたが、新技術登場に伴うCAD/CAMの種類増加や、すべて「1点モノ」の様々なオーダーに対応するための社内管理体制整備が追い付かず、売り上げが横ばいの状態が続いたのである。

 その時期に同社は、ITコーディネータである鬼澤健八(おにざわたけや)氏の支援を受け、様々なオーダーに対応するための最適な作業工程の生産計画策定と進捗管理の強化を推進。職人の経験による手作りの領域に、仕事のパターン化や計数化という管理手法を適用して歯科技工士たちがチームとして機能する仕組みを確立した。また、財務会計、販売管理などの事務業務の効率化といった総合的な取り組みも進めることで、取引先の増加に伴う受注件数の増加に的確に対応することができ、直近の年商がCAD/CAMの導入前から1.9倍になったのである。

 また、同社はこのIT経営の実践が評価され、経済産業省主催「中小企業IT経営力大賞2013」で優秀賞(ITコーディネータ協会会長賞)を受賞している(写真2)。

写真2●生産計画支援システム導入チーム(前列右側が上鵜瀬氏)
写真2●生産計画支援システム導入チーム(前列右側が上鵜瀬氏)
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