業績を上げるには顧客満足度の向上は不可欠、体系化されたプロセス管理で、商品や技術の開発効率が上がる――。こんな経営の「常識」が必ずしも正解とは限らない。名だたるグローバル企業ではゼロから見直し、よりブラッシュアップされた手法を開発している。

 外食しようとお店に出かけると、テーブルの上に「お客様の声を聞かせてください」と書かれた簡単なアンケート用紙が置かれていることが多い。「料理の味に満足しましたか」「従業員の接客はどうでしたか」。いわゆる顧客満足度(CS)調査だ。

 しばらく前に行ったチェーン店でもこうした用紙が置いてあった。味はそこそこだが、値段が安いのでまあ満足。ただし料理が出てくるのが遅く、従業員を呼んでもなかなか来てくれないのでサービスにはかなり不満を感じた。たぶん客の入りに比べて従業員数が少なすぎるのだろう。

 しばらくして、同じチェーンの別の店に行ったところ、前回と同様、アンケート用紙が備えられていた。従業員が少なくて手が回らないという状況も前回と同じだ。

 ちょっと疑問がわいた。

 「このCS調査の結果は、活用されているのだろうか」

 接客サービスの悪さは、私だけでなく多くの顧客が感じているはずだ。本当にCSを上げたいなら、従業員の数を増やすべきだろう。

 ただしそれはコストアップにつながり、価格を上げなくてはいけなくなるかもしれない。そうしたリスクを冒して、それに見合った売り上げ増加などの成果が得られるのか。このチェーンの経営者はその確信が持てなかったので、CSの低さにあえて目をつぶっているのかもしれない。「CSは高いに越したことはないが、投資(この場合は人件費)してまで上げる必要はない」という結論に至ったわけだ(と勝手に想像した)。

業績に連動しない指標を改善してもムダ

 やや堅苦しい話になるが、こうした事象は、企業の重要業績評価指標(KPI)の課題を象徴したものといえる。多くの企業は経営において様々なKPIを設定している。売り上げ、利益、在庫、納期、不良率などもろもろで、もちろんCSも含まれる。

 多くの企業にとって、この中で最も重要なのは、売り上げや利益などの最終的な業績指標だ。そのほかの指標、例えば納期順守率やクレーム数、そしてCSなどは本来、「このKPIが改善すれば、売り上げや利益が増える」といった最終業績との相関があって初めて、指標として意味を持つものといえる。現に日本企業が軒並み右肩上がりで売り上げを伸ばしていた高度成長期には、在庫回転率などを問題にすることは少なかった。

 逆に言えば、売り上げや利益との相関が証明できないのに、「この指標を改善しろ」と言っても説得力は薄い。先の例で言えば、CSが悪くても、料理が安くて立地が良ければお客が来る(現に私も文句を言いながら何度も足を運んでいる)という状況なら、CSと売り上げに相関はない。「お客様の笑顔を見ることが幸せ」といった従業員のモチベーションに訴える効果はあるものの、極論すればCSがどんなに低かろうが経営的には問題がない、という話になる。