ビル・ゲイツとともに米マイクロソフト(MS)を創業したポール・アレンの自伝だ。ゲイツの両親がシアトル市屈指の有力者だったのに対して、アレンは図書館職員という中流家庭に生まれた。しかし通った高校が先進的で、大型コンピュータの端末が使える部屋があった。2人はそこで親友になる。MSの創業期、初めて雇った秘書が朝出勤して床に寝ているゲイツを発見して驚いた話など、2人の超人的な頑張りは印象的だ。同時にMSの成功には努力だけではない様々な偶然も寄与していたことが分かる。
米IBMから開発中のIBM-PC用に16ビットCPU対応言語の提供を依頼されたゲイツは、OSの開発先としてゲイリー・キルドールが率いる米デジタル・リサーチを推薦する。ところが対応したキルドールの妻が秘密保持契約への署名を拒否したためIBMは交渉する気をなくす。納期が迫っているのにOSがないという危機だ。アレンはゲイツと西和彦に「QDOS」という半完成のOSを買収してはどうかと提案する。
「私が話し終えるとすぐにケイ(西)が大声で言った。『それがいい! ぜひそうしよう』」。これでCP/MではなくMS-DOSが世界を制覇することになった。歴史が作られたスリリングな一瞬を登場人物の目から見るのは刺激的だ。西がMSの創成期に果たした役割が非常に大きかったことも改めて確認できる。
しかしアレンは本人も認める通り、ビジネスセンスはゼロに近い。MSを離れてからは失敗続きだ。米AOL株を底値で売って400億ドルの儲けをフイにしたり、ケーブルテレビ会社を買って破産しかけたりする。一方でスパイ映画に出てくるような潜水艦を搭載した音楽スタジオ付き豪華ヨットを建造するなど豪快な億万長者ぶりが愉快だ。アイデアマンぶりも健在で、出資した米スペースシップ・ワンが2004年に初の民間有人宇宙往還機となり、宇宙ビジネスのパイオニアとなった。本書は前半の評価が高いが後半も大いに楽しめる。夏目大氏の翻訳もたいへん読みやすい。(敬称略)
ぼくとビル・ゲイツとマイクロソフト
ポール・アレン 著
夏目 大 訳
講談社発行
2520円(税込)