システム構築の調達フェーズでは、ユーザー企業が受注候補ベンダーの訪問を受けて面談をする。その際、やたらと大勢で訪問したがるベンダーがある。1時間程度の面談予定をあらかじめ伝えているのだが、6~8人くらいでぞろぞろとやってくる。遠目では、スーツに身を包んだ強力な“ビジネス軍団”のように見える。

 なぜ、大勢で訪問するかといえば、「役職上位者を連れてきて誠意とやる気をアピールしたい」「特定技術の専門エンジニアを連れてきて、ユーザーからのあらゆる技術的質問に答えられるようにしたい」ということだろう。ベンダーのこうした気持ちは理解できる。特にこれまで取引関係のないユーザー企業を訪問する場合、質疑応答で「印象を悪くしたくない」という心理が働くことはいたしかたないだろう。

 では、訪問を受けるユーザー側はどう思っているのだろうか。筆者がこれまで見てきた事例では、「当社のために大勢で面談に来てくれてありがとう。感激した」というケースは一度もない。むしろ逆で、「こんなに大勢で来たの?」と否定的に見られてしまうケースのほうが圧倒的に多い。

 まず、参加人数が多いと準備にかかる負担が重くなる。広い会議室を用意しなければならないし、配布資料の部数も増える。面談の冒頭で名刺交換や自己紹介などに時間を取られ、肝心な質疑の時間が短くなる。その結果、個々の人の印象は薄まってしまう。

 そもそもユーザー企業の担当者が調達フェーズで面談をする目的は、ベンダーの偉い人に会うことではない。専門エンジニアと細かい技術的な議論をしたいわけでもない。今後、調達活動を進めていくに当たり、そのベンダーを候補として残すべきか否かを判断したい。その判断のため、今後一緒に仕事をしていく相手として、特にプロジェクトを取り仕切るリーダーの力量を見極めたいのだ。だから、リーダーになるべく多くの質疑を行って評価したいと考えている。

 大勢で訪問すると、リーダーが自分で質疑に答えず、同行した専門エンジニアに振るだけの「司会者」になってしまうことがある。そうなると、「あの程度の質問にも答えられないリーダーは頼りない」ということになり、リーダーの評価は急落する。

 ユーザー側の担当者は面談の際に技術の詳細を質問するつもりはないので、せっかく同行した専門エンジニアが面談中に一言も話す機会がないことは多い。そうなると、「しゃべらなかった人たちは何をしに来たのか?開発コストに彼らの人件費も加わるのだろうか」とシビアな見方をされる。強力な“ビジネス軍団”どころか烏合の衆に見られてしまうのだ。冗談が半分含まれていると思うが、ユーザーの担当者同士では「大勢でぞろぞろと来るベンダーの見積額は高いだろうね」という会話がなされている。

 実際にその後の調達フェーズの結果を見ると、筆者の経験上、大勢で訪問するベンダーではなく少数精鋭で訪問するベンダーが案件を勝ち取ることが多い。少数精鋭チームのリーダーは責任と自覚を持っており、面談での質疑の場を仕切る。その姿は、間違いなくユーザーに好印象を与えている。

永井 昭弘(ながい あきひろ)
イントリーグ代表取締役社長兼CEO、NPO法人全国異業種グループネットワークフォーラム(INF)副理事長。日本IBMの金融担当SEを経て、ベンチャー系ITコンサルのイントリーグに参画、96年社長に就任。多数のIT案件のコーディネーションおよびコンサルティング、RFP作成支援などを手掛ける。著書に「RFP&提案書完全マニュアル」「事例で学ぶRFP作成術 実践マニュアル」(共に日経BP社)など