ビジネスブレイン太田昭和
会計システム研究所 所長
中澤 進

 日本ではIFRS(国際会計基準)に関する議論が盛り上がっているとは言いがたい。一方、米国はIFRS導入の議論で、会計基準の主権にこだわり続けている。こうした差が生じる理由は、米国の方が日本に比べて、会計情報が企業活動あるいは社会システムに深く浸透しているからではないか。

 前回(日本でIFRS議論が盛り上がらない理由(上))と今回では、筆者のこうした考えのもと、会計情報の役割に関する日米の差を(1)マネジメントメカニズム、(2)業績評価の考え方、(3)情報開示への価値観、という3点で整理して説明している。前回、(1)と(2)を取り上げた。今回は(3)を見ていく。

(3)情報開示への価値観

 株式会社は、組織運営のための資金を調達するには極めて有用な仕組みである。投資家にとっても、株式は魅力ある金融商品である。株式会社と投資家を制御する証券市場は、両者の出会いの場を提供する。こうしたスキームが資本主義経済の基盤を担っていることは否めない事実である。

 一方で、株式会社とは「経営者と投資家、証券市場との間の戦いの歴史である」という見方もできる。ここでは、できる限り資金を有利に調達したい経営者、手持ちの資金をできるだけ有効に運用したい投資家、その利害を効率的に結びつける役割を果たす証券市場、という構図とも言える。

 こうした構図の中で、経営者側は資金調達を有利に進めるべく、自社の業績や将来性をより良く見せようとする。これは、企業活動の中では当然の行為であろう。